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ラ=ボエーム
第四幕その五
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「そうだよ」
 ミミの手を握って言った。
「何時でも一緒だから。安心して欲しいんだ」
「そうね、私達は何時でも一緒ね」
 ミミは弱く微笑んだ。
「ずっと・・・・・・だから」
「ミミ」
「寂しくはないわ。何処へ行っても」
「僕もだよ」
「何時でも、何時までも一緒だから」
 弱いがはっきりした声だった。
「貴方と・・・・・・私はそれだけで充分よ」
「僕だけでいいんだね?」
「ええ。だから」
 顔を正面に向けた。
「少し目を閉じさせて」
「あ、ああ」
 嫌な予感がしたがそれに従うことにした。
「ロドルフォの手、とても柔らかい」
「今の君の手だって」
 ロドルフォはそれに返した。
「最初会った時はあんなに冷たかったのに」
「貴方に暖めてもらったから。手が暖かくなって眠くなってきたわ」
「眠るんだね」
「そうよ」
 ミミは答えた。
「ほんの少しの間だけ。また目が覚めたら」
「覚めたら?」
「貴方がいてくれるから。手を暖めてくれた貴方が」
 そのままゆっくりと目を閉じた。ロドルフォはまだ手を握っている。
「また起きてくれるよね、ミミ」
「なあ」
 ショナールは重苦しい声をマルチャッロにかけた。
「わかってるよ」
 マルチェッロもまた重苦しい声で答えた。
「もう」
「ああ」
 コルリーネもそれに頷く。窓から顔を戻したムゼッタもベッドを見てわかった。
「!?どうしたんだい、皆」
 ロドルフォは皆の唯ならぬ様子に気付いた。
「どうしたんだよ、一体」
 皆の態度がよそよそおしくなったのがわかった。
「どうして僕をそんな目で。何なんだよ」
「なあロドルフォ」
 マルチェッロの声はもう泣きそうであった。
「気をしっかり持ってくれよ」
「お、おい」
 ロドルフォはそれから逃げたかっただけだった。逃げられなくても逃げたかった。だがそれは結局出来なかった。皆それがわかっていた。だからロドルフォにもあまり言えなかった。
「まさか」
「その・・・・・・」
「わかってるとは思うけれどな」
 ショナールもコルリーネも言葉を詰まらせる。
「言えないけれど」
「ムゼッタまで・・・・・・そんな・・・・・・こんな・・・・・・」
 握っているその手が急に冷たくなっていくのがわかる。そして動かないことも。
「ミミ!」
 呼び掛ける。だが返事はない。
「ミミ、ミミ!」
 だがミミは微笑んだままであった。何も返ってはこない。ロドルフォはそんなミミの手を握って泣き伏した。誰もそれに何も言えず、涙を流すだけだった。パリの片隅で小さな恋が終わった。

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