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我が剣は愛する者の為に
エイプリルフールネタ
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「こんな単純な儀式で構わないの?」

脇で見守っていたアイリスフィールには、それが思いのほか簡素な準備として目に映ったらしい。

「拍子抜けかもしれないけどね、サーヴァントの召喚には、それほど大がかりな降霊は必要ないんだ」

水銀で描いた紋様に、歪みや斑がないか細かく検証しながら、説明する。

「実際にサーヴァントを招き寄せるのは術者ではなく聖杯だからね。
 僕はマスターとして、現れた英霊をこちら側の世界に繋ぎ止め、実体化できるだけの魔力を供給しさえすればいい」

出来映えに満足がいったのか、切嗣は頷いて立ち上がると、祭壇に縁の聖遺物である刀を置く。

「さあ、これで準備は完璧だ」

その日、異なる場所で、異なる対象に向けて呼びかける呪文の詠唱が、まったく時を同じくして湧き起ったのは、偶然と呼ぶには出来すぎた一致であった。
いずれの術者も、その期するところの悲願は同じ。
ただひとつの奇跡を巡り、それを獲得するべく血で血を洗う者たち。
彼らが時空の彼方の英雄たちへと向ける嘆願の声が、いま、一斉に地上から放たれる。
右手を前に出し、呪文を唱える。

「告げる――
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
 誓いを此処に。
 我は常世総ての善と成る者、
 我は常世総ての悪を敷く者」

切嗣の視界が暗くなる。
背中に刻み込まれた衛宮家伝来の魔術刻印が、切嗣の術を後押しするべく、それ単体で独自に詠唱を紡ぎ出す。
心臓が彼個人の意思を離れた次元で駆動され、早鐘を打ち始める。
激痛が彼の身体を駆け巡るが、それを無視して呪文に集中する。

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

逆巻く風と稲光。
召喚の紋様が燦然と輝きを放つ。
魔法陣の中心には一人の男が立っていた。
昔の中国独特の民族衣装で緑を基調とした服。
髪は黒く美しくそして腰まで伸びていて、後ろで一つに束ねられている。
手には触媒に使った刀を手に取っていた。
彼は閉じていた眼をゆっくりと開けて、切嗣の眼を見据える。

「問おう。
 お前が俺のマスターか?」

ここに外史という、この世界では語られる事のない歴史の英雄が召喚された。
名は関忠統。
関羽の義理の兄にして、外史の英雄。

「ああ、そうだ。
 これが令呪だ」

その問いに答えつつ、右手にある令呪を見せる。
関忠はそれを確認して。

「ここに契約は完了した、と。
 んじゃ、堅苦しい挨拶はここまで。
 これから短い間だがよろしく頼む」

さっきまでの張り詰めた空気はどこに行ったのか、笑顔を気さくに話しかけてくる。
しかし、切嗣は表情を一切変えずに聞いた。
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