第六章 贖罪の炎赤石
第七話 贖罪
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あいう目をした人間は、直ぐに死んでしまう。なのに彼は未だに死んでいないだけでなく、死ぬつもりなら関係のないわしらを助けてくれた。不思議に思ったものじゃが……直ぐにわしはその理由が分かった」
オスマン氏はアニエスから視線を外すと、話に聞き入る食堂にいる者たち、生徒を見渡した。
「彼は何かをしたいのだと」
「何かを?」
アニエスの額に皺がより、訝しげな顔になる。
オスマン氏は、それを眺めながら、自身の長い髭をしごく。
「彼の望みは死ぬことだということは間違いはない。じゃが、死ぬつもりならとっくに死ねたはずなのに彼は生きている。ならば、それには理由があるはずじゃ……そして、死にたい人間が死ねないことには、理由は大きく分けて2つしかない」
髭をしごく手を止めると、穏やかな目で睨みつけてくるアニエスを見つめる。
「死ぬのが怖いか……やり残したことがあるかじゃ」
「……奴が……死ぬのが怖いだけの臆病者じゃないと、何故言える?」
アニエスの脳裏に剣を突きつけられ震えるコルベールの姿が蘇る。
「彼に限ってそんなことはありえんの。彼ほど強い人は……まあ、わしの知る限り片手で数えられる程度じゃな」
「信じられないな……奴がメンヌヴィルを倒したことから、弱いとは言わないが……」
「普段の彼が弱そうに見えるのは、彼が争いを避けている姿が、戦うのが怖い臆病者に見えるからじゃよ。彼は戦いが怖いのではなく、ただ嫌いなだけじゃ。自分が傷つくことよりも……相手を傷つけるのが嫌いなんじゃ……じゃから、避けられる戦いならば、例え罵倒されようとも戦いを避ける。どれだけ罵られようとも、争い傷つけ合うよりもましだと……」
オスマン氏は食堂を見渡す。
銃士隊ではなく、生徒一人一人を見つめるように。
「よく……貴族の誇りのためと、決闘を行うものがいるがの。馬鹿にされた、悪口を言われた、ムカついたから、男を、女を取られたから……別に悪いとは言わん。しかし、そんなことで簡単に力で訴える者たちと、戦えば必ず勝てる力を持ちながら、それでも戦いで傷つけあうよりも罵倒されたほうがましだと、戦いを避けるもの……どちらが真に強い者と言えるのかの」
「……だが……わたしには……戦いを避けるだけの臆病も――」
「臆病者があのメンヌヴィルを倒せるのかね」
「…………」
シンッと静まりかえる食堂に、オスマン氏の声だけが響く。
「……彼は何かをしたいのではないかと、そう考えたわしは、彼を説得した。ああいう者たちがやり残したものというものは、大抵自分でも何をやりたいのかわかっておらんからのう。分かれば説得も容易なのじゃが……土砂降りの雨が止むまで説得は続いたのぅ……何とか彼を学院まで連れて行くことに成功してからも、渋る彼を教師に
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