弐ノ巻
ひろいもの
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、庭に面した綾もそっけもない階が、あった。
いつだったか、兄上は、ここから凍えた月を見上げていた。
あたしはもうない濡れ縁だったところを辿った。あの日は行けなかったその先、兄上の部屋へと。
もちろん、もう何がどこだか分りはしない。あたしの部屋も、兄上の部屋も、何もかもが今は炭と焼けた瓦で溢れかえっている。
ただ、あたしは見たかったのだ。兄上が最期を迎えた場所を。
案の定、兄上の部屋も、見る影もなく崩れ去っていた。
よく、ここにきて、遊んだなぁ…。
あたしはしゃがみこむと足元の瓦を拾ってみた。何が目的と言うことはなく、兄上の名残を漠然と探してしたことだった。
取り残した骨がないかとも思ったけれど、ないようだった。
昔から兄上は本当にあたしに甘かった。あたしもそれに甘えていた。
兄上が、亡くなる、なんて…考えてもみなかった。霊力があったからかな。あたしは父上のことは覚悟できているつもりだったけど、あしたの命もわからぬ戦の世にありながら兄上はなぜか大丈夫だと思っていた。
今、兄上に何か言うとしたら何だろう。
あたしは首を傾げて少し考えた。でも、いくら考えても出てくる言葉はひとつだけだ。
「ありがとう、兄上」
今まで、沢山沢山、ありがとう。
感謝してもしきれない。全然、返してない。
でも後悔しても、いなくなった人が戻ってくるわけじゃない。
「…あたしは、生きるね」
あたしは耳を澄ませたけれど返る声はない。当然、当然のことだ。でも聞いた兄上がどこかで笑っているといい。優しく、義母上とふたりで。
あたしは立ち上がった。
よし!
いつまでもくよくよしていられない。あたしは生きてるし、蹲っていても明日は絶対に来るのだから。それにきっと父上や姉上様のが辛い筈。心配もかけただろうし、あたしがしっかりしなきゃね!
と、思って歩き出そうとしたけれど、かこんと爪先が何かを蹴った。
ん?
木や瓦とは違う軽い音に気になって引っ張りだせば、どうやらそれは、文をしまっておく長方形の文櫃のようだった。この大火事で、燃えずに残っているなんて…と思って手にとって見たら、それはなんと鉄で作った文櫃の外側に木を張り付けて作ってあるもののようだった。
鉄の文櫃なんて、見たことないし聞いたこともない。内側だけ鉄ということは、明らかに火や水を想定したうえで作られたものだ
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