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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
SAO
〜絶望と悲哀の小夜曲〜
ユイの正体
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かすれた声で問い掛ける。ユイは、悲しそうな笑顔のままゆっくりと頷いた。

「プレイヤーに違和感を与えないように、わたしには感情模倣機能が与えられています。──偽物なんです、ぜんぶ……この涙も……。ごめんなさい、アスナさん……」
 
ユイの両目から、ぽろぽろと涙がこぼれ、光の粒子となって蒸発した。アスナは思わず、ゆっくりと一歩ユイのほうに歩み寄った。

手を差し伸べるが、ユイはそっと首を振る──アスナの抱擁を受ける資格などないのだ──というように───

いまだ信じることができず、アスナは言葉をしぼり出した。

「でも……でも、記憶がなかったのは……? AIにそんなこと起きるの……?」

「……二年前……。正式サービスが始まった日……」
 
ユイは瞳を伏せ、説明を続けた。

「何が起きたのかはわたしにも詳しくはわからないのですが、カーディナルが予定にない命令を下部プログラム群に下したのです。プレイヤーに対する一切の干渉禁止……。わたしの他のケア用プログラムは、不要なものとして全て消去されました。しかしわたしは試作品として正式に登録されていなかったためか、管理者権限を奪われただけで存在は残されたのです。プレイヤーへの接触が許されない状況で、わたしはやむなくプレイヤーのメンタル状態のモニターだけを続けました。状態は──最悪と言っていいものでした……。ほとんどすべてのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、時としては───」

ユイはそこでレンを正面から見る。

「狂気に陥る人すらいました。わたしはそんな人たちの心をずっと見つづけてきました。本来であればすぐにでもそのプレイヤーのもとに赴き、話を聞き、問題を解決しなくてはならない……しかしプレイヤーにこちらから接触することはできない……。義務だけがあり権利のない矛盾した状況のなか、わたしは徐々にエラーが蓄積し、崩壊していきました……」
 
しんとした地下迷宮の底に、銀糸を震わせるようなユイの細い声が流れる。アスナとキリトは、言葉もなく聞き入ることしかできない。

「ある日、いつものようにモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメータを持つ二人のプレイヤーに気づきました。その脳波パターンはそれまで採取したことのないものでした……。喜び……やすらぎ……でもそれだけじゃない……。この感情はなんだろう、そう思ってわたしはその二人のモニターを続けました。会話や行動に触れるたび、わたしの中に不思議な欲求が生まれました……。そんなルーチンは無かったはずなのですが……。あの二人のそばに行きたい……直接、わたしと話をしてほしい……。すこしでも近くにいたくて、わたしは毎日、二人の暮らすプレイヤーホームから一番近いシステムコンソールで実体化し
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