第二十二話
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俺は感情が昂ぶりすぎて彼女の姿はよく覚えていなかった。
あのとき手を握ってくれた感触は間違いなく彼女のものだとはわかったが…
3年ほどで彼女は可憐でかわいらしい少女と童女の中間から、美しくたおやかな少女へとその趣を変えていた。
「帰国の式典以来だけれど、そんな気がしないくらい久しく感じます、セルフィ。
本日、伯爵にお時間を作っていただいたのもあなたとの再会が叶えばというわたしのあさましい考えからです。
それにしても以前にも増して美しくなられましたね。あの弓は…もう引けますね」
俺は席を立ち、彼女にいつぞやのように丁寧に礼をした。
「で…殿下。よくぞご無事でお戻りあそばされました…本当にご無事でよかった…」
目を潤ませすこし鼻をぐずらせてセルフィナさんはそう言うとすぐに目が赤くなる。
運よく俺は持ち合わせていたハンカチを彼女に差し出すと受け取ってくれた。
「姫を泣かすとは大悪党ですね。懲らしめねばなりますまい」
いつぞやのように俺はそう言うと軽く握った拳で自分の額を叩いた。
強く殴り過ぎて痛かったわけじゃないけれど、涙がこぼれた。
「殿下は相変わらず、あいかわらず…」
言葉が嗚咽に変わったセルフィナさんと俺の様子から、ついと伯爵は目を逸らした…
「セルフィナ、お前も同席し殿下ご不在の間の我が国の様子の報告と、殿下からのみやげ話を聞きなさい」
しばらくの時間が経ち、落ち着いた様子を見てから伯爵は声をかけてくれた。
俺は彼女の座る椅子を引いてあげると、彼女は座る時に軽く俺の手を握った。
トラキアでのみやげ話を俺はしばらく続けた。
レンナートさんの活躍の話や、彼のトラキア城でのおさんどんさんとの関係などはいろいろと突っ込まれながらも少しオーバーに語りました。
「…なるほど。ご領主どのもトラキアの民も殿下によくしてくれたと」
「はい、それだけが理由にはなりませんが彼らとの争いはわたしの望むところではありません」
「それについては否定はいたしませんが、陛下のご意向をとどめるにはいささか説得力に欠けますな」
「ごもっともです。今すぐとは申しませんのでお二人とも智恵を貸していただければと思います」
「それについて否やはございませぬ。さて、では私は急用を思い出したので館を空けます。
帰りは遅くなると思うので、セルフィナ、殿下からみやげ話をゆっくり語っていただきなさい。
では殿下、また近いうちに今日の件を語りましょうぞ」
「はい、伯爵。道中お気をつけて」
「お父様、いってらっしゃいまし」
俺もセルフィナさんも玄関まで伯爵を見送った。
その時セルフィナさんを見る伯爵の視線は見たこともなく冷厳としたものであった。
「お父様はお怒りでした。
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