第一幕その一
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生憎その司祭様は写実主義なんだ。困ったことに」
「自然主義とかじゃないのか」
「あれは司祭様にとっては唾棄するものだろうね」
マルチェッロは述べた。
「人の醜い姿ではなくて綺麗な姿を見たい人だから」
「それじゃあルネサンスの時代にでも行けばいいのにね」
ロドルフォも笑いながら言った。
「あの時代だって芸術は凄かったけれど」
「人間も教会も凄かった」
「今の王様達だってびっくりさ」
「全く。醜い姿があるからこそ綺麗な姿もあるものだけれどね」
「何ならファラオの顔を醜くしてみたらどうかな」
冗談めかして言う。
「どんなふうにだい?」
「例えば何処かの偏屈な学者とかさ」
「うちにも一人いるしね」
「確かに、ははは」
「ところでロドルフォ」
マルチェッロはまたロドルファに声をかけてきた。
「何だい?」
「何を書いているんだい?」
「勿論詩だよ。けれどね」
「けれどね?」
「今はそれよりも。こいつを見ているんだ」
そう言って暖炉を指差した。見れば真っ暗で火の一つもない。
「何も動かないなと思ってね」
「仕方無いさ、給料を貰ってないんだから」
「給料を」
「そうさ、もう長い間ね」
つまり薪を買う金もないのである。名もない芸術家らしいといえばらしいか。
「困ったことに」
「どうしようかな」
「なあロドルフォ」
マルチェッロは彼に声をかけてきた。
「どうしたんだい?」
「重大な提案があるんだけれどね」
「うん」
その提案に顔を向けさせた。
「寒くはないかい?」
「確かにね」
ロドルフォは友のその言葉に頷いた。
「けれどそれが一体」
「鈍いな」
マルチェッロはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「寒いならどうすればいい?」
「火が必要だね」
「そう、そしてそれには薪が必要だ」
「けれどそんなのはないよ」
「何言ってるんだ、ここにあるじゃないか」
そう言ってニヤリと笑ってきた。
「おいおい、そんなのないって」
「今君の目の前にあるぜ」
「僕の?」
「そうさ、これだ」
自分が今まで描いていたキャンパスを見せた。
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