第一章
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耐える四番
とにかく不調になれば長い、田淵幸一はそうした選手だった。
毎年の様に怪我をしてしかも不調になればそうなる、とかくファンを焼きもきさせる選手だった。
それは阪神番の記者達にとっても同じで田淵が不調になるといつも困っていた。
「またブッちゃん不調だよ」
「いつもいきなり不調になるんだよな」
「それで不調になると長いんだよな」
「いつもな」
こう喫茶店でぼやく、そして。
ある記者がここでこう言った。
「書くか?そろそろな」
「どうした田淵ってか?」
「長いトンネルから何時出るかってか?」
「阪神特急の復活は何時かってか」
「ああ、書くか?」
こう同僚達に提案するのだった。
「そろそろな」
「いや、もう少し待とうな」
「もうちょっとな」
だが同僚達は真剣な面持ちでこうその記者に言った。
「多分そろそろだからな」
「ブッちゃんだからな」
田淵を仇名で呼ぶところに親しさが出ている。そのうえでのやり取りである。
「またそろそろだぜ」
「いつもそうだからな」
「もう少しな」
「様子見た方がいいな」
こうそれぞれコーヒーカップや煙草を手にして言うのだった。とりあえず今は様子見ということになった、そして。
実際に田淵はここで打った、甲子園に大きな弧を描くアーチがかかった、阪神ファンの歓喜の声が球場に木霊する。
「よっしゃあ、田淵打ったで!」
「よお打った!」
「流石主砲や!」
「ここぞって時に打ってくれるわ!」
「あんたは最高や!」
阪神ファンの声援は素晴らしい、それはこの時もだ。
彼等は甲子園のベースを回る田淵に歓声を送る、だが記者達はその甲子園の一塁側においてやれやれといった顔になって言うのだった。
「こうなるんだよな、いつも」
「本当に不調か、とか書こうって思ったら打つからな」
「何で書こうって思った途端に打つかね」
「しかもまだあるからな」
彼等は苦笑いと共に満面の笑みでホームベースを踏む田淵を見た。
「さて、記事だけれどな」
「今回も苦労するよな」
「そうだよな、いつもな」
「ブッちゃんのホームランには」
こう苦笑いと共に言ってだった。
彼等は試合の後ですぐに一塁ベンチの裏に行って田淵にインタヴューをした。田淵は笑顔で一言だけ言った。
「打った球はシュートでした」
「はい、わかりました。シュートですね」
「それですね」
「そうです」
インタヴューはこれだけだった。だが。
記者達はその記事を書きながらこう言うのだった。
「いつもシュートって言うけれどな」
「あのボールカーブだったよな」
「っていうかあのピッチャーシュートは投げないからな」
ピッチャーによって投げる球種が異な
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