第二幕その八
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を殺しでもしない限り」
「わかりました。それを聞いて安心しました」
「安心!?」
彼は買ってきた靴を出しながらテーブルに座った。
「何を安心するんだい?一体」
「まずはテーブルを見て下さい」
「ムゼッタも随分食べたね」
食い散らかされた皿の山と林立する空き瓶を見て言った。
「いつものことだけれど。もう少し上品に食べたらいいのに。まるでナポレオンが食べたみたいだ」
ナポレオンの食事マナーはお世辞にもいいものではなかった。当時ようやくフォークが一般化してきていたというのに手掴みで食べ、食べた骨は床に投げ捨て所構わず汚れた手を拭く。料理が来るのが遅いとテーブルを蹴飛ばし慌てるコックに対してこう言ったのだ。
「そなたはまだいい。余一人の機嫌を取っていればいいのだからな」
そして続けてこう言った。
「余は国民全ての機嫌を取らなければいけないから大変なのだ」
そう言って料理を催促していた。そのうえ食べるのも非常に早かった。この時のパリではナポレオンの食事マナーと言えば無作法の代名詞であった。
「何度も言っているのに」
「マナーだけじゃありませんよ」
「まだ何かあるのかい?」
「ですからテーブルの上を」
「よく御覧になって下さい」
「お勘定があるね」
「はい」
「それも二つって・・・・・・えっ!?」
その二つの勘定を見て思わず驚きの声をあげてしまった。
「な、何なんだこれは」
「ムゼッタからの餞別ですよ」
「払って欲しいって」
「一つはわかるがもう一つは」
「その芸術家のものです」
「芸術家」
思わず声をあげた。
「もうここにはいませんよ、彼等は」
「ムゼッタと一緒にどっかに行っちゃいました」
「またか」
アルチンドーロはそれを聞いて思い切り嘆息した。
「また若い男と」
「けれど怒らないんですよね」
客達はこれ以上ない程落胆する彼に対して尋ねた。
「芸術家と美女はフランスの宝だから」
「人を殺しでもしない限りは何もしない」
「その通りだ」
彼は泣きそうな顔でその問いに答えた。
「支払うよ。これもパトロンの義務だ」
「流石は顧問官さん」
「太っ腹なことで」
「けれど何でこうなるんだ?」
本当に今にも泣き出しそうであった。
「ムゼッタと一緒にいると」
「それがムゼッタなんですよ」
「移り気で遊び人」
「しかも魅力的ときたものだ」
「難儀なものだな」
「けれどそれは承知だったんでしょう?」
「ああ」
へたれ込んでいた。
「まさかとは思ったけれど」
「では次のパトロンを見つけましょう」
「運がよければまた彼女の方から来ますよ」
「そうするか。まずは」
「お勘定ですね」
「そうだったな」
泣きそうなまま勘定を払う。彼にとっては踏んだり蹴
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