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将軍
第二章
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「あの者しか」
「そうであるな。誰であろうと陥ちぬものは陥ちぬ」
「はい」
 まさにその通りだというのだ。
「中々な。それに乃木なればこそだ」
「兵達もですな」
「そうだ、辛い戦場で戦っているのだ」
 そうだというのだ。
「旅順のあの戦いをな」
「ではこのままで」
「乃木は替えぬ。どうしてもというのなら児玉を向かわせよ」
 陸軍、日本の知恵袋だ。その頭脳には定評がある。
「そうせよ。よいな」
「それでは」
 帝は乃木を替えなかった。そうしてだった。
 旅順には児玉が赴いた、彼は旅順の状況、そして乃木の顔を見て唇を噛み締めた。
 見れば乃木の顔には深い皺が幾つも、それこそ刀傷の様に刻み込まれていた。彼はその皺を見て言った。
「乃木さん、貴方は」
「面目ありませぬ」
「いえ、いいです」 
 幼い頃からの親友同士だ、児玉は多くは言わなかった。
 だが全て知っていた、それでこのことを言ったのだ。
「お二人のご子息のことは」
「国家のことですから」
 彼はこの旅順の戦いで二人の息子を死なせている、助けようと思えば己の傍に置くなりして助けられた、だがそれでも。
 彼は息子達をあえて危険な場所につかせた、そして壮絶な戦死を遂げさせていたのだ。
 児玉もこのことを知っていた、だからこそ言ったのだ。
 しかしそのことについて乃木はこう言ったのである。
「構いません」
「そうですか」
「では今からですね」
「お任せ下さい、旅順は必ず陥とします」
 児玉は確かな声で乃木に答えた。
「そうしますので」
「お願いします」
「旅順を陥落させた後はお願いします」
 今度は児玉が乃木に頼んだ。
「それからのことは」
「私がですね」
「乃木さんでなければできませんから」
 それ故にだというのだ。
「宜しくお願いします」
「わかりました」
 このやり取りからだった。児玉は二〇三高地に重砲を持って来てその砲撃により旅順要塞を陥落させた、敵将ステッセルは捕虜になった。 
 捕虜であり敗戦の将だ、だが乃木はここでこう部下達に言ったのだ。
「将軍にお会いしよう」
「司令自らですか」
「そうされるのですか」
「そうだ。そしてだ」
 乃木は部下達にさらに言う。
「将軍に伝えてくれ、帯剣をお願いすると」
「えっ、帯剣をですか」
「それをですか」
 これには部下達も唖然となった。何しろ相手は降伏した敵将だ、その敵将に対して帯剣させたうえで会おうというのだから。
 部下の一人が驚きを隠せない顔で乃木に問うた。
「ステッセル将軍は降伏した敵将ですが」
「そうだな」
「その将軍に対してですか」
「そうだ、そうするのだ」
「それは何故でしょうか」
「武人だからだ」
 乃木が言う理由はそこにあった。
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