第一章
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将軍
乃木稀典について後世の者は色々と言う。
やれ無能だ、やれ役立たずとだ。だがそれは正しいのか。
よく人々は乃木を無能な軍人と呼ぶ、しかしそれは果たして本当かどうかというと難しいのではないだろうか。
明治の頃の話である、陸軍を動かしていた元老の一人山縣有朋は長年の同志である政敵でもある伊藤博文に料亭においてこう言っていた。
「乃木を第三軍の司令官にしたい」
「そうか」
伊藤は一言で応えた。
「わかった。それならだ」
「反対はせぬのか」
山縣は伊藤を見て問うた。
「乃木で」
「西南の役で連隊旗を奪われたことか」
「乃木については言われている」
それはこの頃からだった、そして山縣もそのことは知っていた。
そのうえで彼を第三軍の司令官に推したいというのだが伊藤が反対しないことを受けてそれで言ったのである、
「軍人としてどうかとな」
「そうであろうな、連隊旗を奪われたことは失態だ」
「乃木もそれを悔いてはいるがな」
「しかし失態は失態だ」
伊藤の言葉は今は厳しい。
「それに他ならない」
「その通りだ」
「だが」
「だが、だな」
「乃木はやってくれる」
伊藤はこうも言うのだった。
「己の責務を例え何があってもな」
「そしてそれ以上のことを見せてくれる」
山縣はここでこう言った。
「必ずな」
「それ故にだな」
「乃木を推したい、指揮や作戦はいい部下をつけるなり」
「他にもあるな」
「児玉もいる、だが乃木なればこそだ」
「やれることがあるからな」
「だから乃木には一軍を任せる」
連隊旗を奪われた男だがそれでもだというのだ。
「陛下にもこうお勧めする」
「陛下も認められるだろうな」
「陛下こそが最もよく陛下をわかっておられる」
山縣は謀略を得手としており汚職の話も多い、傲岸不遜で陰気な為人気はない、だがそれでも人を見る目はある。
その山縣が推す、そして明治帝もだというのだ。
伊藤は確かな声で述べた。
「陛下は自ら選ばれたい程だからな」
「乃木には任せる」
「それでいい」
二人の元老達の意見は一致していた、こうして乃木は第三軍の司令官に任じられそのうえで日露戦争に参戦した。
乃木が率いる第三軍は旅順要塞攻略を受け持った、だが。
旅順要塞は堅固だ、攻めても犠牲ばかり出る。あまりもの犠牲の多さに陸軍司令部は流石に危惧を感じだしていた。
幕僚達の中にはこうした意見が出ていた。
「第三軍の司令官を交代させるべきではないのか」
「乃木大将では無理だ」
「旅順を攻略できなければ旅順港もどうにも出来ない」
「旅順艦隊をどうにかしなければ日本に勝ち目はない」
「だからこそここは」
こうした話は山縣の耳
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