第二章
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「食い物がまずいのが難儀や」
「ううん、食い物は何もかもをj決めますさかいな」
「そういうこっちゃ。それでや」
「はい、何でっか」
「水くれ」
これはすぐに言えた。
「水一杯くれや」
「わかりました。ほな」
兄ちゃんは坂田の言葉に笑顔で頷きすぐに水を持って来た。そうして坂田はその水を飲んでまたカレーを食うのだった。
坂田三吉はとにかく将棋ばかりしていた。朝起きて夜寝るまでとにかく将棋ばかりしている。将棋を打つ店にはいつもいて勝負をしている。
いつも彼と打つ隠居が彼と打ちながらこんなことを言ってきた。
「ちょっとええか?」
「何でっか?」
坂田は将棋の駒、歩を手に取りながら隠居に問うた。
「もう一勝負予約でっか?」
「それもあるけどな」
それだけではないというのだ。
「坂田さん東京で勝ってきたやろ」
「弱い相手やったわ」
その相手は何でもなかったというのだ。
「気位ばかり高い。大したことありませんでしたわ」
「その相手八段そうやったけど」
「将棋は段やおまへんで」
隠居の歩を一枚取りながら言う。
「強いかどうかや」
「それだけかいな」
「そうですわ。わし十段でも勝てますで」
坂田は言い切る。
「それこそ」
「確かに坂田さんやったらいけますな」
「やりますわ。とにかく将棋では負けまへん」
また言い切った。
「誰にも。伊達にガキの頃からずっと打ってまへんわ」
「朝から晩までな」
「小学校出てすぐでしたわ」
当時の義務教育は小学校までだ。そしてその小学校を出てから毎日だったのだ。
坂田は将棋ばかりしていた。それでだった。
今隠居の手元にある本を見てもこう言うのだった。
「その本ですけど」
「ああ、この本かいな」
「何ていうんでっか?」
その表紙の文字を見ての言葉だ。
「それは」
「ああ、これかいな」
「何かわかりませんけど」
「これ平仮名やけどな」
「ああ、そうなんでっか」
坂田はかつては字が読めていた。だが将棋ばかりしているうちに字がわからなくなったのである。
わかるのは将棋の駒の字だけだった。他はわからなくなっていた、それで平仮名と言われてもわからなくなっていたのだ。
それで今もこう言うのだった。
「ちょっと気になりまして」
「相変わらず本は読むことないんかいな」
「興味ありませんわ」
そうだというのだ。
「本については」
「そやな。本当に将棋だけやな」
「わしは将棋さえ打てればええんです」
こうまで言う。
「ほんまに」
「そやな、ほんま将棋一代やな」
「ええ、ずっと将棋打ちますわ」
そして勝つというのだ。
「わしはそうして生きますわ」
「将棋馬鹿やな。けどな」
「けど?」
「かみさんは
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