第二幕その四
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「そうさ、あいつは悪魔だ」
目が座ってきていた。
「悪魔じゃなくて何なんだ。人の心を惑わしてばかりいて」
「その声は」
あまりに騒ぐのでムゼッタの方も気付いた。
「マルチェッロ」
「おや、こっちを見ている」
「知るものか」
マルチェッロはショナールの言葉にも構わずまた酒を飲んだ。
「シチューをくれ」
「おい、そんなに飲んでるのにか」
「酔い醒ましにもなるさ」
「そう言いながら飲んでるじゃないか」
「いいんだよ、もう」
仲間達の言葉にも耳を貸さない。相変わらず飲みっぱなしである。
「言ってくれるわね、全く」
ムゼッタはマルチェッロに顔を向けて目を少し怒らせた。
「気付いている癖に。飲んでばかりで」
女としての怒りであった。
「私を怒らせたこと。覚悟しておくがいいわ」
そう言いながら椅子にどっかりと座り込んだ。そして注文をはじめる。
「ボーイさん、これとこれと」
次々にまくしたてる様に注文する。
「これも持って来て。大至急ね」
「ちょっとムゼッタ」
慌しい様子の彼女を向かいの席に大きな息と共に座り込んだアルチンドーロが窘める。
「そんなに慌てるのは」
「お行儀が悪いっていうの?」
「そうだよ。ここは穏やかにだね」
「相変わらず人のいい方だな」
コルリーネは戸惑うアルチンドーロを眺めながら言った。
「まるで鳥みたいだ」
当時お人よしは鳥と例えられたのである。
「見ていなさいよ」
「誰と話しているんだい?」
「誰とでもないわ」
アルチンドーロに独り言を聞かれてキッとして返す。
「ボーイさんとよ。それがどうかして?」
「ボーイ君にも穏やかにだね」
「私は自分の好きなようにしたいの」
「いや、だからそれは」
「あんたの方が五月蝿いわよ」
酷い言葉であった。
「そんな・・・・・・」
「つべこべ言ってないで食べたら。ほら、来たわよ」
「あ、うん」
テーブルの上に次々ワインと料理が運ばれて来る。見ればロドルフォ達が食べているのより豪華な酒と料理であった。
「さあ食べて」
「元々私の金なんだけれど」
「何か言った!?」
「いや、別に」
アルチンドーロは小さくなっていた。そしてボソボソと食べはじめる。
「ふん」
「またムゼッタが癇癪を起こしているな」
何時の間にか店の周りにカルチェ=ラタンの学生や娘達が集まっていた。そして酒や食べ物を手にムゼッタを見て笑みを浮かべている。
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