第一章
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DESIRE
情熱、それは大事だ。
特にデザイナーを仕事にしている私には大事だ。それでだ。
服について考える時もだ。いつもモデルの娘に言っていた。
「ただね。服を着るんじゃなくてね」
「心ですね」
「心がないと駄目なんですね」
「心がないまま着てもね」
どうかとだ。私はいつも彼女達に言い切った。
「それは抜け殻よ。マネキンと同じよ」
「私達はマネキンじゃないんですね」
「そうだっていうんですね」
「そうよ。私も含めてね」
服をデザインする私も。そうだと言うのが常だった。
「情熱、それよ」
「この服を着ようっていうかですか」
「それが大事なんですね」
「つまりは」
「そういうことよ。心を忘れてはモデルではなくて」
彼女達にも言い。そして。
私自身にもだ。いつも厳しく言い聞かせていた。
「デザイナーでないのよ」
「じゃあいつも服を着る情熱を持ちます」
「例え何があっても」
「そうします」
「ええ、そうしてね」
私はこうしたことをモデルの娘達にもスタッフ達にも言っていた。とにかく情熱がないとこの仕事はできない、何よりも大切にしていた。
けれどだった。近頃その情熱が色褪せてきた気がしていた。それでだ。
マネージャー、私がこの仕事をはじめてからいつも二人三脚で働いてくれている彼女にだ。バーのカウンターで一所にカクテルを飲みながらこう言ったのである。
「最近スランプっていうかね」
「そうみたいね」
マネージャーはすぐに私にこう返してきた。
「最近ね」
「わかるの?」
「わかるわよ。ずっと一所にやってきたじゃない」
だからだと。彼女は私に微笑みを向けて言ってきた。
「それでわからない筈ないでしょ」
「それでなのね」
「貴女だって私のことはわかるでしょ」
「何となくね。やっぱりね」
どうしてわかるのか。私も答えた。
「付き合いが長いからね」
「そうでしょ。わかるでしょ」
「何となくだけれどね」
「そういうことよ。私も貴女のことがわかるのよ」
「それでなのね」
「何ていうか。最近ちょっと情熱が色褪せてきてるわね」
そのままだ。私が感じていることを言ってきた。
「そうでしょ。本当に」
「そうなのよね。こうした仕事は情熱がないとできないけれど」
「けれどその情熱が」
「ええ。何か最近ね」
本当にだ。これは絶対に駄目だと思いながら言った。カクテルも普段は美味しい筈なのに味をこれといって感じない。その中での言葉だった。
「こうしてカクテルを飲んでもね」
「ブラッディマリーね」
鮮血、この刺激的な名前で大好きなカクテルを飲んでもだった。
「赤くて色も好きなのに」
「刺激を感じないのね」
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