第一幕その九
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第一幕その九
「これでそちらの請求の分は全ていけるかね」
「は、はい」
ボーイはその札に戸惑いながらも答えた。
「おつりが来る程ですよ。今は持ち合わせがありませんが」
「後で持って来る、と言いたいのだね」
「え、ええ」
「今すぐでなくていいよ。まあ何時でもいい」
「わかりました」
人は金が入ると寛容になるものである。借金がなくなると余計にだ。
「私の用件はそれだけだ。下がっていいよ」
「はい」
「あ、そうそう」
ヴェルトナーはここでふと気付いたようにボーイに対して言った。
「おつりのうち半分は君へのチップだ」
「そんなにですか!?」
これには彼も驚いた。
「今までやれなかったからね。まあその謝罪も意味もある。いいからとっておきなさい」
「わかりました」
彼は笑顔で応えた。
「下がっていいよ」
「はい」
やはりヴェルトナーの声はゆとりのある鷹揚なものであった。
「では私はこれで」
「うん」
ヴェルトナーはやはり余裕のある顔で頷いた。
「伯爵」
ボーイは彼を爵位で呼んだ。
「何だね」
久し振りに貴族らしい態度で返す。
「以後も何なりと御命じ下さい」
彼はいささか大袈裟ともとれる程恭しく頭を下げた。彼はそれを余裕をもって受けた。
「うん、その時は宜しく頼むよ」
「はい」
そしてボーイは部屋を後にした。ヴェルトナーは一人になっても得意気であった。
「ふむ、久し振りだなこんな気持ちは」
「お父さん、どうしたの?」
その声に気付いたズデンカが部屋に入って来た。
「誰かおられたみたいだけれど」
「おお、御前か」
彼は娘に優しい顔で振り向いた。
「ちょっとな。素晴らしい方が来られてな」
「素晴らしい方?」
「そうだ。おかげで我々は助かったのだよ」
「助かったって何が」
「まあそれはおいおいわかるさ。御前が心配するようなことじゃない。いや」
彼はにこりと笑ってズデンカに対して言った。
「むしろ喜ばしいことだよ。御前にとってもな。さて」
彼はここでテーブルの上に紙幣を一枚置いた。そして身を翻した。思いもよらぬ軽やかな動きであった。
「用事が出来たのでこれでな。それではな」
そして部屋を出た。ズデンカはお札を見ながら呆然としていた。
「一体何があったのかしら」
事情を知らないので首を傾げることしかできなかった。
「賭け事に勝ったのかしら。そんな筈はないけれど。いえ、もしかして」
不吉な考えが胸を支配した。
「借金でもしたのかしら。けれどそんな筈はないし」
借りるあてもないからである。
「それじゃあ一体何かしら。けれどお金があったらこの街から離れなくて済むし。そうしたら」
愛しい者の顔が浮かんだ。
「けれどそれは変わら
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