第一幕その八
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だがそれは一瞬ですぐに目を伏せた。
「呼びましょうか、二人共」
彼の義理の母、そして妻になるかも知れないのである。それは当然であった。
「いや」
だが彼はそれに対して躊躇いを見せていた。
「今ですよね」
「はい」
「今は少し・・・・・・」
その整った逞しい顔を赤くさせていた。
「おやおや、恥ずかしがる必要はありませんぞ」
「それはわかっていますが」
どうやら恋愛にはかなり純情であるらしい。
「ただはじめて会うというのはやはり神聖なことですし」
「そうですか。無理強いはしません」
ここで強制するような野暮なことはしなかった。ヴェルトナーはここで彼に任せることにした。
「私はこのホテルに泊まることにしましょう。そしてそちらからの御命令を待ちましょう」
「そうされるのですか」
「はい。それならば私も喜んでそちらにお伺いすることができますし」
「わかりました」
ヴェルトナーはそれを聞き賢明な判断だと思った。
「それでは」
マンドリーカは立ち上がった。
「部屋を取って来ますので暫し失礼」
「はい」
彼は頭を下げた。少し不器用な感じもするが礼儀正しい。頭を上げると彼はその場を後にした。
「では後程」
そして二人は別れた。ヴェルトナーは一人になるとテーブルの上に置かれている札束を見た。先程彼が置いていったものだ。
「まさかこんなことが実際に起こるとはな」
嬉しいことは事実だがにわかには信じられなかった。
「この札束が今私の目の前にあるということは事実なのだが。それにしても」
テーブルに近寄りその札束を手にした。かなりある。
「これだけあれば請求書のものもホテルにツケにしているのも全て清算できるな。いや、それでもまだかなり余るぞ。信じられないな」
札を数える。そして思わず唸った。
「もうこれでギャンブルで危ない橋を渡って金を稼がなくていいな。本当に夢のようだ」
ここでその借金のことを思った。
「まずは一つ清算しておこうか」
そしてベルを鳴らした。すぐにボーイがやって来た。
「何でしょうか」
「うむ」
彼はそのボーイに対して鷹揚に頷いた。
「実はね」
そしてその札束のほんの一部を彼に渡した。
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