第一幕その六
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私はアラベラの写真を一枚彼の手紙に入れておいた。白鳥の羽飾りのついた青い舞踏服のものをだ。それであの娘を気に入ってくれるようにな」
「ではアラベラは老人と結ばれるのですか!?」
アデライーデはそれを聞いて暗い顔で問うた。
「そうなるな」
ヴェルトナーも暗い顔で返した。
「だが他に解決する道はないんだ」
「他に、ですか」
「ああ、ウィーンに留まる為にはな」
「何てこと。そこまでしてこの街にいたくはないわ」
彼女は嘆いた。目を閉じ首を横に振る。
「ではどうする?」
「ここを出ましょう、そしてヤドウィの伯母さんのことろへ行きましょう」
「以前言っていたようにか」
「ええ。そして貴方はそこで家の管理人になって私は伯母さんのお手伝いに」
「伯爵夫人ともあろう者が」
「けれどそうするしかないわ、こうなっては」
「アラベラとズデンカはどうなるんだ?」
「ズデンカはずっと男の子のまま。仕方ないでしょう」
「そうか。気の毒だな」
「私だってそう思うわ。けれどそれしかないでしょう」
「ああ。認めたくはないが」
彼は苦虫を噛み潰した顔で頷いた。
「アラベラは?」
そしてその顔のままアラベラのことを問うた。
「さっきの占いでは悪い結果ではないが」
「ええ。けれどもう私達には何もないのよ。本当に何もないのよ」
「エメラルドのブローチもあの占い師に渡してしまった」
「そうよ。あれが最後だったわ。これで本当に全てがなくなったわ」
「そうだな。全てが終わったか。諦めるしかない」
二人は苦渋に満ちた顔で同じく苦渋に満ちた声を吐き出した。
「だが今は落ち着こう。酒にしよう」
「はい」
二人は顔を上げた。そしてヴェルトナーがベルを鳴らした。
「何でしょうか」
すぐに立派な制服を来たボーイが姿を現わした。
「コニャックをくれ。いつものを」
「申し訳ありませんが」
ボーイはそれに対して畏まって答えた。
「お客様には何も差し上げてはならないことになっております。現金ならば別ですが」
「そうか」
わかっていた。支払いが滞っているからだ。ヴェルトナーはそれを聞いて再び苦渋の顔に戻った。
「じゃあいい。用はない」
「わかりました」
ボーイは頭を下げて部屋を後にした。二人は閉じられた扉を見て溜息をついた。
「本当に終わったな、もう何もかも手詰まりだ」
「ええ。やっぱりこの街を去るしかないわね」
「ああ」
その時だった。先程のボーイがまた入って来た。
「お客様」
「何だ!?呼んでないぞ」
「お客様が来られていますが」
「わし等ではなくてか」
「はい。男の方です」
「いないと言ってくれ。請求書ならあそこに置いてくれ」
そう言いながら書斎の机を指差す。かなり投げやりな様子だ。
「い
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