第一幕その六
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第一幕その六
「あの馬を」
「馬?」
「そうよ、ロシアの馬よ。貴女はあの馬に引かれて宴に向かうのよ」
「どんな馬かしら」
ズデンカは窓に歩いてきた。アラベラはそれを見て微笑んでいる。
「ほら、あれよ。あの・・・・・・」
ズデンカに馬を見せようとする。だがここでアラベラはアッと声をあげた。
「どうしたの、姉さん」
「嘘・・・・・・」
姉は我を失っていた。普段の落ち着いた様子はなかった。
「そんな顔して」
「あの人がいたのよ」
「あの人?」
「そうよ。さっき話したでしょ。あの人よ」
「ああ、外套を着た人ね。その人がどうしたの?」
「今下にいるのよ」
「本当!?」
ズデンカはそれを聞いて窓の下を覗き込んだ。確かにそこには誰かがいた。見れば外套に帽子を身に着けている。その為顔はよくわからなかった。
「あの帽子と外套を身に着けた人なの?」
「ええ」
アラベラはそれに頷いた。
「間違いないわ、ほら見て」
アラベラはその男を指差してズデンカに対して言う。
「上を見上げてらっしゃるわ。きっと私のことを探しておられるのよ。あの大きな瞳で」
「そうかしら」
だがズデンカはそれには懐疑的であった。
「私にはそうは見えないけれど」
そう言って姉を嗜めた。
「姉さん、少し落ち着いた方がいいわ。あの人は誰も探していないわよ」
「そうかしら」
「ええ。ほら見て」
そしてそ男を指差した。
「通り過ぎて行くみたいよ。やっぱり姉さんの考え過ぎよ」
「そうなの」
アラベラはそれを聞いて残念そうに溜息をついた。
「けれどまさか」
「姉さん」
ズデンカはそんな姉に対して忠告しようとした。だがここで二人の両親が姿を現わした。
「二人共」
「はい」
二人はそれを受けて顔を向けた。
「ちょっと大事なお話があるの。悪いけれど席を外して」
「わかりました」
何の話をするのかは大体わかっている。二人はそれに従った。
「じゃあズデンカ、準備に取り掛かりましょう」
「ええ」
そして二人はそれぞれの部屋に入った。両親は後から出て来た占い師を送ると席に着いた。ヴェルトナーはその前に書斎の机の前に向かった。
「やれやれ。相変わらず請求書の山だよ」
彼は溜息をつかずにいられなかった。
「他には何もないな」
「連隊の御友達にお出しになった手紙は?」
「残念だが」
ヴェルトナーは妻に対して首を横に振って答えた。
「何もないな。マンドリーカにも送ったが」
「マンドリーカ?何方ですか?」
「ああ。凄い大金持ちでな。ある女性の為にヴェローナの街路に三千シェッフェルの塩を撒かせる程のな。その女性が八月なのに橇に乗りたいと言ったので」
「それは凄いですわね」
「そう思うだろう。だから
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