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アラベラ
第一幕その四
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第一幕その四

「そう、それならいいけれど」
 彼女はそう言いながらも妹を心配そうな目で見ていた。
「一人で悩まないでね。私が相談に乗るから」
「うん」
 しかしそれはできなかった。他ならぬ彼女のことであるからだ。
「あら」
 アラベラはここで花瓶の花に気付いた。
「綺麗な薔薇ね」
 見れば真紅の薔薇が花瓶の中にあった。
「一体誰が持って来てくれたの?いつものハンガリー騎兵の人?」
 彼女はハンガリー騎兵の将校にも愛を告白されているのだ。
「ううん」
 だがズデンカはそれに対して首を横に振った。
「マッテオからよ」
 実は彼女自身が持って来た花だ。だがそれは言わない。
「そう」
 アラベラはそれを聞いて少し溜息を漏らした。
「気持ちは有り難いけれど」
「やっぱり駄目?」
「ええ」
 アラベラは少し残念そうな顔をして答えた。
「ところであれは?」
 アラベラは離れた場所にある花束に目を向けた。
「エレメールさんからのよ」
「そう」
「そしてドミニクさんの香水にラモーラルさんからのレースも。皆さん今日も姉さんに御執心よ」
「そうなの。皆さん気持ちは有り難いけれどね」
 あまり嬉しくはないようである。
「気持ちを受け入れる気にはなれないの?」
「ええ。申し訳ないけれど」
「マッテオも?」
「ええ。わかるでしょう?私とあの人は合わないわ、残念だけれど」
「そう」
 ズデンカはそれを聞いて悲しそうな顔をした。
「愛してはいないのね」
「ええ」
 アラベラは答えた。
「私はそれを偽ることはできないわ。自分の気持ちも。そしてそれはあの人自身にも悪いわ」
「そういうものなの」
「私はそう思うわ。貴女はどうかわからないけれど」
「そうなの。マッテオの気持ちはわかっているでしょう?」
「それでも駄目なの。結ばれたとしてもお互いが不幸になってしまうわ。私達だと」
 彼女にはそれがわかっていた。だからこそそう言えるのである。
「あの人を傷つけるわけにはいかないわ」
「そうなの」
「少なくとも私はそう思うわ」
 アラベラは自分の心を素直に語った。
「マッテオは本当にいい人よ。あの人と一緒になれた人は必ず幸せになれるわ」
「それなら」
「けれどね」
 アラベラはここでズデンカに対して言った。
「それでも駄目なのよ。わかるかしら」
「いえ」
 ズデンカはそれに首を横に振った。
「私には贅沢を言っているようにしか思えないわ」
「そうでしょうね。確かに私は贅沢を言っているかも知れない。けれどね」
 彼女はまた言った。
「それでも私とあの人は合わないわ。何ていうかそうした運命なの」
「運命って・・・・・・。じゃあマッテオは姉さんとは結ばれない運命なの!?」
「そういうこ
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