SAO編
episode6 キエルヒカリ
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明滅するように歪む視界の中で、俺は全力で疾走し続けた。
PoHと戦っていた安全圏を出たため、いくらかのMobが湧いてはくるが、俺は『軽業』のスキルの奥義をつかって惑わしながら、完全に無視して走り続ける。そもそも、そんなものは俺の視界には入ろうとも意識にはまるで存在していない。
「………っ、」
ぼろぼろの廊下を駆け抜けながら、震える右手を振ってマップを呼びだす。ダンジョン攻略のために、既にマップデータの登録されたその地図に光るのは、フレンド登録されいるプレイヤーが存在していることを示す小さな光点。
その数が、一つしかない。
「っ!!!」
瞬間、目の前が真っ暗になったように錯覚する。
床がまるで沼地にでも変わってしまったように、足元が急に覚束なくなって床に倒れそうになる。足がもつれる、なんてこの世界で初めてかもしれない経験に、眩暈を覚える。
だが、体が無意識にそれを立て直し、頭に中までは、届かない。頭の中にあるのは、既に、二つの光点がないということだけ。既に二人が、ここにいない。視界が狂ったように揺れ、涙で霞む。
「っ、まだ、まだだっ!」
その場に崩れ落ちそうになったものの、必死に足を、心を持ちなおす。
そうだ、まだ終わりじゃない。
一人、残っているのだ。
恐らくはPoHが俺を足止めしている間に、フレンドでは無いせいで光点の表示されない何者か、恐らく…いや、間違いなく、『笑う棺桶』の幹部と戦っているのだ。最後の一人が、まだ戦っているのだ。
まだ、間に合うんだ。
「いそげ、いそげっ!!!」
溢れ出る涙をぬぐい、更に加速する。限界までも振り絞る敏捷値すらももどかしく感じて、僅かでも速力を稼ごうと神経回路を焼き切らんばかりに走らせて足へと指令を出す。前を遮るMob達を一息でかわしながら、走る。走る。
ソラ達の向かった方の分かれ道に差しかかる。このペースで行けば、光点までは後二分とかからないだろう。だが今は、その二分が、何十分にも、何時間にも感じる。
間に合え、間に合え、間に合ってくれ!!!
必死に願い、マップを凝視しながら走る俺の、その目の前で。
「っ、ぅぁっ…!」
最後の光点が、音も無く消滅するのが見えた。
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