SAO編
episode6 恐怖と絶望の体現者3
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
戦闘は、一方的だった。
一方的に、俺が押されていた。
十五分にも及ぶその戦闘の疲労で、俺は地面に膝をついた。
「はあっ、はあっ、はあっ!!!」
切れるはずの無い息が、異常に苦しく感じる。分かっている。どう考えても心理的な原因だ。俺のHPは確かにまだ七割以上残っている。しかし、それは、ポーチに入っているハイレベルのポーションを二つ、高級品である回復結晶一つを消費してのものだ。
「くっ…!」
歯を食いしばる。
いや、食いしばろうとしたが、ガチガチと震えるだけで歯の根はかみ合わなかった。恐怖に、絶望に、震えを止めることが出来なかった。なぜなら。
「Good…いいぜ、その表情だ」
PoHのHPは、減っていなかった。
捨て身で放った攻撃のいくつかは当たっていたし、短剣を拳で迎撃した際に少しの削りダメージは入ったはず。だがそれは、戦闘時自動回復か、或いはなにか特殊な防具の効果かの自動回復ではいるその量にすら劣る程度のものだった。
俺のアバターは、悲しいほどに非力だった。それを、嫌というほど思い知らされた。それを補えると信じていた敏捷力とさまざまなダッシュスキルも、PoHには全く歯が立たなかった。
「っ…。ぅっ…」
そして何より、俺の心はこれ以上ないほどに圧し折られていた。流れ落ちそうになる涙を、留めることが精一杯な様に。その顔は、さぞや情けなく歪んでいることだろう。
PoHは、明らかに遊んでいた。途中からは最大の威力を発揮する斬り技を封印し、中華包丁では十分に威力を発揮できない突きばかりで俺を責め立てる。挙句の果てには、HPが危険域に落ちた俺が回復結晶を使うのを、笑って見過ごしたのだ。
だめだ。
勝てない。
構えていた拳が、力無く揺れる。
霞む視界で捉えていたPoHの姿を直視できず、がっくりと俯く。
俺はその時、死を覚悟した。いや、生きるのを諦めた。だが、頭上から降ってきたのは魔剣の斬撃ではなく、馬鹿にするような、呆れたような声だった。
「…So−Bad。まだ気付かないのか?」
そう、この時俺はまだ気付いていなかった。
呆れるくらいにばかばかしいことに。
「俺がなんで獲物を殺さないのか。こんなところに一人でいるのか」
絶望に、目の前の敵にばかりに気を取られていて、周りが見えていなかった。
そして。
「なぜお前の仲間がここに来ないと思う?」
そう。なぜ他のメンバーが。『冒険合奏団』の三人が、ここに来ないのか。『隠蔽』もしていないため、マップを確認すればフレンド光点が浮かび上がり、ここで俺が不自然に留まっているのを見えているはず。
なのになぜ、十
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ