第三幕その五
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第三幕その五
「私のお願いでも」
「それは」
マンドリーカはその言葉に振り向いた。
「ここで暫く待っていて下さいますか」
「宜しいのですか?」
「はい」
アラベラは微笑んで答えた。
「そしてそちらの従者の方にお願いしたいのですが」
「私にですか」
「ええ。お医者様にはお帰り頂いてそして拳銃を収めて下さい」
「わかりました」
「それから」
アラベラはなおも話を続けた。
「何でしょうか」
「はい」
アラベラは静かに答えた。
「お水を持って来て下さい。コップに一杯のお水を」
「それで宜しいのですか」
「はい、今の私にはそれが必要です」
「わかりました」
彼はそれに従いその場から立ち去った。その際マンドリーカが彼に声をかけた。
「これを」
懐から財布を取り出しそこから札を何枚か取り出した。
「お医者様に。謝罪として」
「わかりました」
アラベラはその間に自分の部屋に戻った。マンドリーカに顔を向けることなく挨拶もなかった。
「当然だな」
マンドリーカはそれに対してうなだれてそう呟いた。
「私の様な愚かな男には。そうされて当然なのだから」
彼にはそれが痛い程よくわかっていた。少なくともそう自責していた。
だからこそ階段の上にある部屋から目を離すことができなかった。そこにいる女性は自分を決して許しはしないだろうと考えていた。
「全ては終わった。私は残りの人生を後悔と自責の中で生きていかなくてはならない」
扉は開かない。開く筈がないと思っている。
やがて従者が戻って来た。彼はその手にコップに入った水を持っている。
「来たか」
「はい」
従者は主に答えた。
「ではその水を上に持って行きなさい。あの人にね」
「わかりました」
この時二人はそのコップの水が何を意味するのかわかってはいなかった。ほんの少し落ち着いて考えればわかったかも知れない。だが今の彼等はそれを考えるにはあまりにも多くのことがあり過ぎた。
従者は階段を上がる。そして部屋の扉の前に来るとその扉をノックした。
扉が開く。その中にいるであろう彼女は見えない。
「見えないのは私の恥ずべき行いのせいか」
マンドリーカはそれを見てそう思った。
従者が下がる。そしてマンドリーカの側にやって来た。
「御苦労」
「はい」
彼は主に頭を下げた。
「今日は色々と世話をかけた。これを」
彼はまた財布を取り出しそこから札を一枚彼に手渡した。
「それで美味しいものでも食べなさい」
「有り難うございます」
彼は従者達に対しても決して吝嗇ではなかった。むしろ気前のいい男であった。
「では今日はこれで休んでいいよ」
「はい」
従者は頭を下げその場を後にした。こうしてマンドリーカだけがそ
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