第三幕その五
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こに残った。
彼は階段の前に来た。そしてそこから部屋のある上の階を見上げている。
「彼女は来ない」
彼はまだそう思っていた。
「それはわかっている。だがここを立ち去るわけにはいかない」
それが最低限の責任の取り方だと思っていた。少なくともこの場では。
扉が開いた。そしてそこからアラベラが姿を現わした。その手にはあの水がある。
「あれは」
マンドリーカはその水に目がいった。
「どうするつもりなのだ」
その時先に彼女に話した婚礼の際の清らかな水のことを思い出した。だがそれが自分に向けられるとは思ってはいなかった。
扉を閉め前を進む。マンドリーカはそんな彼女から目を離さない。
そしてゆっくりと階段を降りてくる。ホテルの灯りの中に照らされながらゆっくりと降りてくる。
遂に彼の前に降り立った。そしてそのコップの中の水を差し出した。
「どうぞ」
彼女は微笑んでその水を差し出した。
「私にかい?」
マンドリーカは受け取る前にそう問わざるを得なかった。
「勿論です」
アラベラは微笑んでそう答えた。
「貴方以外に誰がいるのでしょうか」
「しかし私は」
受け取ることが出来ない、そう言おうとした。だがアラベラはそれを許さなかった。
「女性からの申し出を断るのはどうかと思いますよ」
「ですが」
それでも彼は躊躇った。だがアラベラはそんな彼に対して静かに語りはじめた。
「この水を受け取った時私は考えたのです。飲み干してしまおうかと」
落ち着いた気品のある声であった。
「ですがそう考えた時貴方のことが思い浮かんだのです。それで今宵のことは全て清められたのです」
「清められたのですか」
「ええ。この水によって」
彼女はここでその水を彼に見せた。
「この水に私は貴方の顔を見ました。それで私は決めたのです。この水に従おうと」
「そしてここまで来られたのですか」
「はい」
彼女は答えた。
「そしてその清らかな水を私の生涯の伴侶となる貴方に差し上げようと決めたのです。娘時代の終わる最後のこの夜に」
そして再びその水をマンドリーカに差し出した。
「わかりました」
彼はようやくそのコップを受け取った。そしてそれを手にして彼女に対して言った。
「その続きは申し上げていませんでしたね」
「続きとは」
「ええ。まずは私がそのコップの半分を飲みます」
彼はそこでそのコップの水を実際に半分程飲んだ。
「そして」
次にそのコップをアラベラに差し出した。
「次には貴女が飲まれるのです」
「この清らかな水をですね」
「そうです、そしてそれが私達を清め永遠に結びつけるのです。祝福の水として」
「わかりました」
アラベラはそれを受けてその水を手にした。そしてその水を全て飲み干し
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