SAO編
episode6 ワカレミチ
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俺はこの時、本当に幸せだった。
元の世界がそれほど不幸だったとは思わないが、それでもこの世界と比べると霞んで見えてしまうほどに幸せだった。毎日が楽しく、明日が来るのが待ち遠しかった。ソラが隣にいるということが、なによりも幸せだった。
この世界が、デスゲームだということを、忘れてしまうほどに。
◆
「んじゃっ、行きますかっ!」
「おっけーッス!」
「……ごーごー」
「気をつけてな」
「そっちが一人じゃんっ! そっちこそ、気をつけてねっ!」
最前線にほど近い、六十五層の古城のダンジョン。迷路のようになった構成では、かつての『忍者屋敷』ほどではないにせよ様々な仕掛けがあったが、それぞれに対して俺達はしっかりと対策を練ってあった。
最初の仕掛けは、一階にある階段を下ろすカラクリ。二か所のレバーを一定時間内に…まあ事実上二手に分かれて…操作する必要があるが、ここの分割メンバーも前もって決めてある。本来は二対二なのだろうが、今回は安全を取って三対一…つまりは俺が単独行動する手はずになっていた。
「…ほんとに、気をつけてね」
「…ん? どうした、ソラ?」
ふと違和感を感じて俺が尋ねる。いつもは俺が単独行動をしてもにこやかに見送るソラが、今日に限っては何故か心配そうな目でこちらを見ていたのだ。一瞬訝しんだが、すぐに俺はその理由に思い至った。
そうか、結婚してからはなんだかんだ理由をつけて別行動が減っていた。
考えてみれば今回が、結婚以来初めて二手に別れての行動だった。
思わず苦笑してしまいながら、ソラの頭をポンと叩く。
それで伝わったのか、ソラがにぱっと笑う。
「ん、頑張ってね、旦那さん」
「おお、そっちも頼むぜ、奥さん」
俺が茶化すと、ソラは悪戯っぽく言い返して、左手を突きだす。指の部分が切り抜かれたグローブ、その薬指に光る指輪、《ブラッド・ティア》…システムで、結婚指輪に指定したアクセサリー。見えはしないが、リングの裏には二人の名前が刻まれている指輪。俺も笑って、その突きだされた拳に俺の拳を打ち合わせる。
二つ、揃いの指輪が、キン、といい音を奏でた。
◆
(よし、と)
俺の探索は、何の問題無く進んだ。
最前線間近とはいえ俺のレベルはソロでも十分安全と言えるマージンを持っていたし、何よりMobとの相性が良かった。この古城ダンジョンに出てくるのは死人型や幽霊型といった、防御や耐久にはひと癖ある連中だが、そのスピードは格段に遅い。いちいち相手をせずに振り切るのであれば、俺にはなんの問題も無い。
結果、ほんの五分足らずで俺はあっさりとレバーの前まで到着していた。
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