第8話『新たな高み』
[6/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
を貸さず、一瞬だけ笑――
「おい……勝手に終わらるな」
――その表情が固まった。
驚いたのはエースだけではない。エースの仲間も、ジンベエも。
「俺はまだ……戦える」
腹に火拳の直撃を受けただけあって、出血がはなはだしい。しかも火だ、おそらく重度の火傷にもなっているだろう。
常人ならたっていられないだろうその傷で、だがハントはゆらりとエースをにらみつける。
その目に、一切のくもりはない。それどころかより一層に強い光をたたえている。言葉を失っていたエースも、それを受けて呆れたように笑った。
「こいよ」
「……」
身構えて、だがハントは動かない。
「?」
エースが首をかしげたところで、ぼそりと。
「この一撃だ」
「ん?」
「……お前の生きている火、俺の不完全な水への意識、心臓の鼓動、差す光、吹き抜ける風、乱れる呼吸……尽きない大気」
「大丈夫か?」
会話が成立しない。困惑の色を見せるエースへ向けて、だがそれを気にも留めないでハントは言う。
「俺は人間で、魚人じゃない。大気があって水がないのが当たり前だ。魚人は水中でもっと強くなる、彼らの魚人空手も水の中に入ればより強い効果を発揮する。けど、俺は違う。陸にいるときと変わらない威力しか発揮できない。俺が人間だからだ。でも、だからこそ違う。感じるのは水じゃない、大気だ。制圧するのは水? 違う。じゃあ大気? ……違う。大気と水だ。だったら俺は陸でこそ強い魚人空手だ」
ぼそぼそとエースには理解の出来ない言葉を並べ立て、ゆらりと魚人空手を構えた。
「……お前?」
さすがに不気味になってきたらしく、ちらりとハントの仲間であるジンベエへと視線を向けるが、その彼もじっとハントをみて動かない。
「悪いが容赦はしねぇ……立った以上、それが男の決闘だ」
エースが拳を固めたとき、ハントがやっと動いた。
「この一撃に全てをこめる。行くぞ、火拳の」
ハントの言葉を受けて、小さく笑みを浮かべたエースが拳を腰だめに構える。先ほどまでの一撃はすべて手を抜いていたのだろうか、そう思わせるほどの炎がエースの拳から生まれ――
「――火拳!」
それを全力で放った。
「魚人空手――」
それに対し、ハントは小さくつぶやいた。これに驚いたのはジンベエだ。
「やめるんじゃ、ハント! 魚人空手そのものでは火には――」
だが、次に聞こえてきたハントの言葉に、息を呑んだ。
「――陸式」
「り、りくしき?」
炎がハントへ迫っていた。もう回避は間に合わない。それへ向け、ハントは最後の一撃を繰り出した。
「若葉瓦正拳」
突きこまれた拳とともにハントの体が炎に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ