第十三章 (1)
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にとどめるはずだった。しかし、烏崎の姿を見た瞬間――焦りが昂じた。つい、飛び込んでしまった。…そして柚木は、リネン室の中で静かに息をひそめていた。…携帯が鳴るのを待ちながら。
「なにをそんなにリネン室にこもる用事があるんだ…!」
しばらく、沈黙が流れた。誰かが廊下を通るたびに、さりげなさを装って壁にもたれる。烏崎が、顔を上気させて呟いた。
「…なぁ。なんかおかしくないか」
「…え?」
「もう30分近くなるぞ。…もっと優先する仕事があるだろうが」
「そういや、そうですが…」
「ありゃ、サボりだな。…なぁ、悪いナースには、おしおきが必要だよな…?」
彼らがリネン室の柚木を不審に思い始めたことに、柚木は気がついていなかった。
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隔離病棟入り口付近の自転車置き場に、僕らは潜んでいた。鉄錆が浮いたポールにトタン屋根が取り付けられて、一応自転車置き場の体裁を成している。でもこんな山頂まで自転車を漕いでくる馬鹿はそうそういないから使われることもない。隔離病棟の入り口も丸見えだし、絶好の潜伏場所だろう。と、紺野さんが5秒で決めた。
「動かないなぁ…」
「あぁ…年寄りは尿が溜まらないのか」
「逆に近くなるんじゃないの…」
もう、30分以上経つ。…とはいえトイレに行くスパンで考えれば全然短いので、トイレに立たないおっさんが異常だとは言えない。
「まだか!じじい尿管結石じゃねぇのか」
「…なんで知らないじじいの尿の具合に、こんなに気を揉んでるんだ、僕らは…」
「――この日が、のちの世で『日本一の尿検査士』と謡われる姶良壱樹の、人生の分かれ目になろうとは、当時の彼は知る由もなかった…!」
「不吉なナレーションつけるのやめろよ…この後じじいの尿と一悶着あるみたいだろ」
…ここはトタン屋根以外の遮蔽物のない山頂。容赦なく叩きつけてくる寒風に晒されて、指がかじかんできた。
「柚木、無茶してなければいいけど」
「いくら何でも30分もリネン室周りをうろうろしてたら、怪しまれるぜ。これ以上は柚木ちゃんが危ない。…強行突破するか」
「………仕方ない」
紺野さんは重い腰をあげて、駐車場までの距離を測る。
「いいか、最悪の場合、流迦ちゃんを奪還後、八幡を人質にして車まで走る。お前と柚木ちゃんは置いていくから、途中まで手伝ってくれ」
「いや、付き合うよ。僕は軽犯罪で済むだろう」
景気づけに拳をぶつけ合い、駐輪場をあとにする。ふと思い出して、柚木にメールを打った。『終了』。
送信が済んだ瞬間、ぎゃきゃりきゃりずどーん、という金属が岩肌にぶつかって横転するような音が背後から聞こえた。受付の職員や、待機中の刑事がわらわらと出てきたので、慌てて駐輪場に引き返す。
「な、何だありゃ」
「…交通事故、だね。担架担
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