第百十六話 三杯の茶その三
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「殿の傾きは度が過ぎておられる」
「では慶次程では」
「あ奴は論外じゃ」
通具の今の言葉には顔色がさっと変わった。
「天下一の傾奇者を目指しておるそうじゃが」
「既になっていますな」
「うむ、なっておる」
平手は極めて憮然とした顔で述べる。
「そして天下一の悪戯者じゃ」
「そちらは相変わらずですな」
「昨日もやってくれたわ」
平手は腕を組み憮然となっている。
「わしの似顔絵を描いて鬼と言っておったわ」
「鬼ですか、平手殿が」
「わざわざ角まで生やさせてな」
「やれやれ、慶次らしいですな」
「全く。あ奴も子供の頃から知っておるが」
平手は彼のこともそれだけによく知っている、こうした意味でも織田家の長老と言っていい存在なのである。
「その頃からああじゃからな」
「又左は少し落ち着いてきましたがな」
通具は前田についてはそうだと言う。
「あれで」
「うむ、あ奴も傾いておるがな」
「それでも」
「次第にそうなってきたのう」
「しかし慶次はですね」
「本当に変わらぬわ。何度怒ったかわからぬ」
そこで拳骨を振るう、平手は実際は拳を振るうことは柴田と違い稀だが慶次に対してだけは別なのである。
「それでもじゃからな」
「楽しんでおるのでしょう」
林はその慶次をこう看破した。
「あ奴は」
「わしをからかってか」
「まさに子供の様に」
「身体と力だけ大きくなりおって」
「童心ですな」
林は笑ってこの言葉を出してきた。
「それですな」
「童心か」
「飾らずありのまま己を出していますが」
「傾くのもそれか」
「慶次の場合はそうかと」
「そうじゃな。言われてみればな」
平手も林の言葉でそのことに気付いた。
「あ奴はそれじゃな」
「はい、童心ですな」
「子供のままではなく童心か」
「それを持っているかと」
「少しはもっと大人になれと思うがな」
「そして政も学べですか」
「あれでは見回り位しかできぬ」
間違っても田畑や町や道、堤には行かせられない。慶次は政の時は見回りか寝ているだけの男である。
「不便じゃがな」
「自分で大不便者と言ってますな」
「政を学べと口やかましく言ったがな」
「そもそも政には興味がありませんな」
「うむ、そうじゃな」
学、風流を解するがそちらには全く疎い。
「頭は悪くないが不向きじゃな」
「あ奴にとっては」
「なら仕方ないか」
「あ奴はあ奴で織田家にとって欠かせませんな」
「天衣無縫の傾奇者じゃ」
平手も慶次をこう評する。
「中々ああした男はおらぬしな」
「ではこれからも」
「殴ってやる」
その慶次をというのだ。
「こちらも容赦せぬわ」
「ははは、平手殿はそうでなければ」
「平手殿ではありませ
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