第十九話
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を渡してからの彼女は少しだけ目を伏せ、それから穏やかな笑みを俺に見せると
「寂しいけど、ここでお別れだね」
俺にとっては予想も付かない一言を投げかけた。
「え? 一緒にレンスターへ行こうよ」
「アタシはトラキア人だもの、もしまた戦があったら裏切り者のようでつらすぎるよ。 それに、王子の国だと窮屈で肩がこりそうだしねぇ。礼儀作法だの挨拶でガチガチな暮らしはまっぴらさ」
彼女の気遣いなのか、苦笑いするかのような口元の動きに俺の心は締め付けられ、気の利いた引き止めの言葉なんて出てくるわけもなく……
「また会えるよね?」
「もちろんさ、それに、毎月ってのは無理だろうけど、時々手紙くらいは出すよ」
できる限りの気持ちを顕すため、俺は懐から取り出した櫛と共に彼女を引き止めるための言葉をかけた。
「これ、受け取って欲しいんだ。 母の形見なんだけど……」
「……なぁ、それ渡す意味わかってるのかい? アタシは前になんとなくだけど察したつもりだよ? だから…………次に会えた時も同じ気持ちなら受け取ってやるよ。いまのオマエは雰囲気に流されてるからね」
「そぅ……なのかな……」
「あの時、カッコ良かったよ。レンナートとアタシにバシッと言ってくれてさ。
そして……これはアタシの偽りのない気持ちさ」
昨夜と変わらないほどのやさしげな表情を見せた彼女は、はらりと落ちかけそうな俺の涙を人差し指と中指で拭い……
不意に俺の唇は、彼女のそれで塞がれた。
「また会おうね!」
精一杯の手向けなのか、元気な声を俺のためにかけてから、彼女は雑踏の中を去って行った。
俺はその後ろ姿をずっと見続けていた……。
--2章おわり--
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