第一幕その八
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第一幕その八
「馬車が来ましたかな」
「いや、あれは出た音だよ」
ジェロントが言う。
「聞けばわかるだろう」
「あれっ、貴方ではなく」
「まさか。ここにいる。しかも彼女がいない」
「ということは」
レスコーもようやく事情が掴めてきた。酔っているせいでそこまで頭が回らなかったのだ。
「マノンの奴、気付いたか」
「何を悠長な。逃げられたというのに」
ジェロントは彼の隣に座ってきた。そうしてじっくりと彼と話をするつもりだったのだ。
「さて、逃がしたのは」
周りでは若者達と娘達が楽しく飲んでいる。時折彼等がちらちらと見ているのがわかる。レスコーはこれでおおよその見当はつけてしまった。しかし。
「まあ御安心下さい」
「彼女の居場所がわかるのか」
「はい、このパリです」
彼は述べる。
「ここ以外にはありません」
「そうなのか」
「はい、それにですね」
彼は立ち上がった。そして席を勧める。
「まあ二人で。ゆうるりとお話しましょう」
「そうだな」
二人は席を替えた。そこでまた話をはじめたのであった。
「それでですね」
レスコーがまず言う。
「私はマノンの兄です。彼女のことならわかっています」
「それで何処にいるのかわかったのか」
「ええ。あれは派手な女でして」
それもよくわかっていたのだ。
「華やかな場所が大好きなのです。ですから間違いなくパリにいます」
「ここにか」
「それにですな。どうやらあの騎士殿と一緒に逃げたようですが」
デ=グリューがいないことを確かめていた。それを見て何か余計に安心したようであった。
「だからこそ大丈夫なのです」
「だからこそか」
「はい。先程申し上げた通りマノンは派手好きです。貧乏暮らしが大の苦手」
「あの騎士殿はお金持ちには見えないな」
「学生はいつも貧乏なものです」
レスコーはしれっとして述べた。
「そうですな」
「確かにな」
それはジェロントも知っていた。こくりと頷く。
「少し待てばいいです。私はその間に彼等を探します。そして」
「わしのことを言うのか」
「そう、それだけです」
レスコーはジェロントに頷いてみせた。
「どうです?簡単でしょう」
「そうだな。では君に任せる」
「お任せあれ」
悪戯っぽく敬礼してみせた。
「では今は乾杯を」
「うむ、飲むか。これからの幸せの為に」
「この世の幸せは酒と美女の為にあるもの」
レスコーは言う。すると。
「さあさあ飲もう」
エドモンドが彼等の後ろで騒いでいた。レスコーはそれを聞きながらまた言う。
「彼もそう言っていることですし」
「そうだな。今宵は楽しく」
「二人で」
彼等はそう言い合って笑みを浮かべ合う。その後ろでは若者達が馬鹿騒ぎをして
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