第二部まつりごとの季節
第三十三話 備えあれど憂いあり
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人垣の中心に邏卒達が集まった野次馬達を追い払い、怒号を交わす男たちの姿が視界に飛び込んだ。
豊久や草浪中佐の警告が新城の脳裏をよぎった――
「閣下、宜しいでしょうか。」
――偶然ではないだろう、ならば事の結末を見届けている奴が居るはずだ。
「よろしい、気をつけろよ。何かあったら保胤に顔向けができん」
「大丈夫でしょう、それに何かあっても僕にも用意はありますので。」
かつて大隊長と仰いだ友人が我儘を言って作らせた輪胴短銃を見せた。
「成程な、だが油断はするなよ。」
窪岡少将の言葉を背に地に足をつけた。
――さて、何処にいるものやら。
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同日 午後第三刻半 馬堂家私用馬車内
馬堂家嫡男 馬堂豊久
馬堂豊久中佐は事故から三寸もせずに馬車の対面に飛び乗って来た客人に目を向ける。
一見すると精々が兵役を終えたばかりの商店員くらいにしか見えない。
だが隙のない身のこなしと着物の左胸が細長く膨らんでおり、彼が暴力に慣れている事を馬堂中佐に読み取らせている。
「見事な手腕だ、さすが堂賀閣下の信を受けるだけのことはある。」
馬堂中佐の世辞に特設高等憲兵はにこりともせずに答えた
「いえ、元からあの手の連中が出入りしている政国屋は警戒対象に入っていました。
室長閣下も不穏な動きがあったら止めよ、と。人殺しを稼業にして三代の連中です、叩けば埃がでてきます」
――成程、予想的中だな。
さきの奏上以降、主だった将家達やその影響の強い大店ともに特高憲兵の監視下に置かれていた。中でも守原家御用達の政国屋は特に裏社会に強く通じており、当然のごとく最重要監視対象の一つに数えられていた。そして、政国屋が愛用する“事故”を引き起こす者達が動き出したとの一報は古巣である防諜室に確固たる影響力を確保している情報課次長の通達に従い、即座に馬堂豊久中佐の下にも届いたのである。
「後始末は此方で行う、後は任せてくれ」
そういうと階級も知らぬ(おそらくは尉官か下士官)私服憲兵は背筋を伸ばして頭を下げた。
「――御協力感謝いたします、中佐殿」
そしてそれは単なる政局上の駆け引きではない、特設高等憲兵隊皇都本部が下した判断として、小規模な事故を引き起こし、皇都視警院の手によって捕縛させる事で警告とすることにしたのである。であるからこそ、警察に強い影響力をもつ堂賀准将達憲兵将校と馬堂家と関係が深く、警保局長の経験者である弓月由房内務勅任参事官の協力を必要としていたのである。
――俺がまた顔をあわせたら再度、伯爵から無言の圧力がかかるのだが。
愚痴は内心にとどめ、馬堂中佐は眼前の私服憲兵に目礼をする。
「あぁ、本部長に無理を聞いてくれた礼をよろしく言ってくれ。」
――失礼致します、中佐殿。
そう言い残し、路地
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