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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十三話 備えあれど憂いあり
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 ――また、その逆も然り、であるが。
 佐脇の顔を思い浮かべつつ内心で毒づく。
「それだけか?」
 窪岡は睨むような目で新城を探る
「僕にとってはそれで十分以上です」
「成程、保胤が聞いたのならば、喜ぶだろうな」
 鼻で笑いながら頷く窪岡へ新城はわずかに唇を歪めて答える。
「御内聞にお願いします。何しろ義兄は、なんと云いますか、御存知の通りの御方ですから」
 それを聞いた窪岡少将は笑いを噛み殺しながら云った。
「貴様も人物眼はあるようだな」

「育ちが育ちです、閣下。人間と云うものに興味を持たざるを得ません」
それと他人に好かれるかどうかはまた違うことは新城も身を以て知っている。
 ――何かと義兄達に気をかけられたりもしたが、どうにもならない事もある。
「率直でもある」
「正直と評されたらどうしようかと思いました。」
 面白そうに新城との問答に目を輝かせていた窪岡は声を上げて笑いながら「そうだな、貴様があの馬堂の若造と長い付き合いだと知らなかったらそう言ったかもしれんな」と云い。
今度は新城が苦笑を漏らす事になった。
――奴は余程の事か、冗談くらいにしか嘘をつかないが、正直と評するには程遠い。本人が聞くと不貞腐れるだろうが、奴は祖父や父の影響が良くも悪くも強いのだ。

「あぁ、それは確かに。ですが、それなら我慢強いとも評していただきたいですな」
 これを聞いた少将は呵呵と笑いだした。

「貴様の義兄殿も貴様の事はちゃんと見ている様だな!保胤から聞いていた通りだ!」
そう言って再び笑い声をあげ、「――貴様、人務部で草浪中佐に会ったか?」
その響きが消えない内に冷静な声で新城に尋ねた。
「はい、閣下」
「貴様はどう見た」
 ――貴様は、か。
「守原の陪臣では一番のやり手だと聞いていました。確かに世評に違わない人物だと」

「ほう、それで?」
窪岡少将は面白そうに観察するが、その視線を受け止める新城は愉快とは感じていなかった。
 ――この手の事で奴と比べられるのはあまりいい気がしない。奴が頭に叩き込まれた人名簿の分厚さはあの家の家風を考えれば分かる。
「――切れる男です、出来れば好意を勝ち得たいと思っております」
「そうか。」
 顎に手をやり、考えを巡らせている。軍官僚として高い評価を得た頭脳がどの様な思考を紡いでいるのだろうか。
――ふと人務部で見かけた両性具有者を思い出した、彼女(かれ)らは完全な美貌に加え、
優れた論理思考能力を持っていると言われている。――まぁ、自分には縁のない類の人々だ、少なくとも当面は。

 馬車の中の静謐は外の喧騒に破られた。馬の嘶き、人の怒号、そして――呼子の甲高い音が馬車の中を満たす空気を切り裂いた。
 新城が半ば反射的に扉を開き、周囲を見渡すと
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