第二部まつりごとの季節
第三十三話 備えあれど憂いあり
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皇紀五百六十八年 五月 十五日 午後第三刻
軍監本部公用馬車内 〈皇国〉近衛少佐 新城直衛
対面に座っている人物へ目を向ける。ほっそりとした顔に似合わない無骨な顎髭を生やしている高級軍官僚、
――軍監本部戦務課課長・窪岡淳和少将だ。
「貴様の義兄殿から話は聞いているな?」
「はい、閣下には必ず御挨拶をしておけ、と」
「あぁ、挨拶は大切だよ。」
窪岡少将が薄く笑いながら頷く。
「えぇ、餓鬼の時分から義兄にそれだけは口うるさく教えられました。感謝しております」
まさしく駒城保胤ここにあり、とでもいうような行動に目の前の将官が声を上げて笑う。
「――そうだな、貴様の義兄殿はそう云う人間だ。だからこそ、此処まで苦心して筋道を立てたのだからな。――貴様は既に近衛少佐になっているな?」
「はい、閣下。衆兵隊司令部附です。」
「あぁ、そうだろうな。だが、すぐに新編の大隊が与えられて司令部附の辞令は外れる筈だ。
衆兵隊司令長官である実仁殿下は旅団を任せても良いとお考えだったのだが、流石にそれは周囲の反感を買いすぎる」
「有難うございます」
――矢張り、奴の予想通りか。まぁ、確かに旅団長は准将が補職される事が常識だ。新任の少佐を其処に任じるのは無茶に過ぎるだろう。
――それに、豊久が聯隊を指揮する事が決まっている以上僕が(実際は三千名程度の聯隊規模とは言え)旅団を持っている彼方此方で要らぬ騒ぎがまたぞろ騒ぎだすに違いない。
「そうだよ、恩に着ろ。特に、義兄殿と この俺に、あれこれと大変だった。人務部長としての初仕事と仕事納は貴様に拘ったのだからな」
豊久の言葉を思い出し、何となく面白みを覚えた。
――世話になった、か。確かに、そうかもしれないな。
「貴様もそれなりの働きをしたからな。これからは並みの将家以上の待遇になるだろうさ。
ほんの数年で旅団が手に入る位にな」
「はい、閣下」
――それまで国が保てばいいけれど。
半ば禁句になっている言葉は胸にしまっておいた。
「あぁ、そう言えば貴様、参謀教育は受けているのか?」
「いいえ、閣下」
新城が軍の中で受けた教育は幼年学校で受けた銃兵としての基礎教育だけで、後は強いて云えば剣虎兵学校で戦史の教官の真似事をした程度である。
「そうか、まぁ貴様の様な男は実戦の指揮だけで十分だ。
兎に角、保胤にしろ俺にしろ――それに殿下も貴様の実力に見合った地位に就く事を望んでいる。理由については言うまでもないな?」
窪岡の言に新城は内心肩を竦める。
――その理由は三者三様だろう。だがそれは義兄や豊久たちの領分であり、自分は好き好んで関わろうとは思わない。
「僕は受けた恩義は忘れません。とりわけ、義兄から受けたものは絶対に。」
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