第一幕その三
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第一幕その三
「綺麗な人だな」
エドモンドは美女を見て呟く。
「あそこまで綺麗な人にはパリ、いやベルサイユでもそうそう」
「いないのか」
「ああ・・・・・・っておい」
言ったのはデ=グリューなので思わず目を瞠った。
「君が言ったのか」
「ああ、僕さ」
夢うつつの声でそれに応えてきた。
「あんな綺麗な人は。見たことがないよ」
「ほう、言ったな」
エドモンドはその言葉ににやりと笑った。
「いい言葉だ」
「そうだな」
「デ=グリューがそんなこと言うなんて」
周りの者達も言う。
「これは面白いことになりそうだ」
そう言っていると美女の向かい側の若い男がふと思い出したように言ってきた。
「おっと」
「どうしたの?兄さん」
「いや、忘れ物だった」
彼は言う。
「ちょっと馬車に戻って来る。いいな」
「ええ」
男はすぐに席を立ってその場を後にする。チャンス到来であった。エドモンドはそれを見てすぐにデ=グリューに囁きかけた。
「今だ」
「今だって?」
「彼女に声をかけるに決まってるだろ」
そう囁く。
「ほら、行け」
「あっ、ああ」
「頑張れよ」
「何かあったら俺達が助けてやるよ」
皆で彼を送りだす。デ=グリューは美女の前におずおずと姿を現わした。そして声をかけるのであった。
「あの」
「はい」
美女は彼に顔を向けてきた。彼は彼女の側に立っている。
「お願いがあるのですが」
「何でしょうか」
「はい、一つお聞きしたいことがあります」
如何にも慣れていないといった様子でおずおずと問う。
「貴女のお名前は何というのでしょうか」
「私の名前ですか?」
「はい。よかったらお聞かせ下さい」
彼は言う。
「何と仰るでしょうか」
「マノン=レスコーと申します」
「マノン=レスコー」
「そうです」
こくりと頷いてきた。
「そうですか。僕はデ=グリューと申します」
「貴族の方ですね」
それは名前でわかった。『デ』という形冠詞がその証拠であった。なおそこから彼がイタリア系の貴族であろうことも想像がついた。フランスの貴族は『ド』、イタリアの貴族が『デ』だからである。
「ええ。レナート、レナート=デ=グリュー、それが僕の名前です」
「そうなのですか」
「はい。それでですね」
デ=グリューは自分でも意外な程積極的に彼女に問うた。半ば無意識のうちにであった。
「貴女はパリにずっとおられるのでしょうか。宜しければこのパリやベルサイユの案内を」
「残念ですが」
しかしマノンはその言葉には悲しい顔を見せてきた。そのうえで俯く。
「そうはいかないのです」
「といいますと」
「親の取り決めで」
「ええ」
「私は修道院に入ることになっているのです」
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