第一章 グレンダン編
道化師は手の中で踊る
眠る剣と女王の剣
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キの体は健康そのものだった。
『信じられない。傷口が完全に……いや、傷なんてないんですよ』
担当した医師が言った言葉だ。
傷口が塞がっているというのだ。医師の言葉から察するに傷が消えてしまっているそうだ。
あり得ない、この一言に尽きる。
いくらシキが常識はずれの剄を持っていても、内臓まで達した刀傷を一日でくっつかせて、完全に治癒することなどできるはずがないと武芸に詳しくないリーリンでもわかる。
リンテンスの鋼糸が影響したかとも思われたが、リンテンスが否定した。
『俺の糸は治療用ではなく純粋な戦闘用だ……後遺症のほうが残る可能性が高い』
たがシキの体は治っている。喜びたいところだがシキの意識はあれから戻ることはなかった。
「……ごめん、ごめんね、シキ」
リーリンは耐えきれずに涙を流す。
後悔だけが押し寄せる。
あの日、レイフォンとの戦いの最中、リーリンはシキを応援していなかった。レイフォンが勝てばいいとずっと思っていた。
シキとレイフォンが殺し合いをするなんて信じたくなかった。……いや、レイフォンの刃がシキを切り裂くその瞬間まで認識していなかったからだ。 体から真っ赤な液体を絶え間なく流し続ける弟を見て、リーリンはようやく理解した。
二人が殺し合いをしたのだと。
グレンダンは汚染獣の襲撃が多いが、リーリンは本当の命をかけたやり取りを見たことがなかった、いや見る必要がなかったと言える。
レイフォンやシキたちも汚染獣と戦ってきてもニコニコしながら怪我ひとつなく帰ってくる。
心配はしていたが命の心配まではしていなかった。酷くても汚染物質の軽度な汚染などで命を心配する必要はなかった。
だけれどもリーリンは思った。それはシキとレイフォンの実力が凄くて、怪我をする程の敵ではなかったのではないかと。
ならば、その二人が手加減の一切を捨てて戦ったらどうなるのか……。結果は未だ寝ているシキだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
涙を流しながらリーリンは起きない弟に向かって謝罪の言葉を何度も口にする。
しかし、シキが聞いていたのなら首をふってこう答えるだろう。
『ばーか、不安にさせないために俺やレイフォン、武芸者がいるんだぜ?』
ニヤリと笑いながら、言うことだろう。
結局、シキはその後一ヶ月、起きることはなかった。
気がつくと、シキは真っ白な空間にいた。
「……あれ?」
辺りを見回すが、真っ白な空間が広がっているだけでなんの面白みがなかった。
頭を捻ってなんでここにいるのか考えてみて……ふと、思いついた。
「天国、かな?」
死んだ人が逝く場所だと聞いたことがある。
シキ自身、天国は信じてなかったがこの空間を見て、思いついたのがそれだった。
鈍か
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