第一章 グレンダン編
道化師は手の中で踊る
眠る剣と女王の剣
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内力系活剄が身体に満ち、それに伴って強化された腕で、花瓶を力任せに壁に叩きつける。
材質、意匠と、グレンダンで高名な陶芸家が凝らせるだけの質と技術を凝らした壺が、無惨な音を立てて壁の装飾と共に砕け散った。
砕け散った破片は大理石の床へと落ちていく。
おそらくグレンダンで、一番高価で芸術的価値のある壺を投げた人物……ミンス・ユートノールは砕けた破片を見て、腹の底で煮えたぎる怒りが最高潮に達し、同時に引いていくのを感じた。
投げた壺は人から送られた物で、普通なら謝るべきだがミンスは砕け散った破片を見てほくそ笑んだ。
この壺は、ミンスの兄であるヘルダー・ユートノールが、グレンダンの女王であり、彼の婚約者でもあったアルシェイラから送られた壺だ。
幼少の頃より忌々しいと思っていたものである。罪悪感など欠片もない。
仮に今の行動でミンスの激情が引いていなければ、彼は怒りのまま王宮へと乗り込み、行われているであろう祝宴をブチ壊すべく自身の錬金鋼を復元し、その刃を貧しい孤児に向けていただろう。
そうレイフォン・アルセイフ……いや、天剣授受者、レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフに。
「何故、わたしではないッ!」
テーブルに顔を伏せ、忌々しげに呟く。
レイフォンにとっては理不尽に等しい感情、しかしミンスにとっては当たり前の感情なのだ。
ユートノールというグレンダンを統べる三王家の後継ぎである自分と、グレンダンではありふれた孤児であるレイフォン。
どちらが選ばれるなら、自分が選ばれるはず……いや、自分が選ばれるべきだと、ミンスは確信していた。
ミンスは青年と少年の狭間にいる歳だ。少年と言ってしまえる歳であり、青年と言ってしまうには少々若い。
一応、グレンダンの法律上は結婚できる歳ではあるが、それでもまだ少年の青さというか、そういう甘えのようなものが顔から抜けきっていない。
自分よりも若い。いやいっそ若すぎると言えるレイフォンに反感を覚えないわけがなかった。
たかが剄が強いだけの孤児が栄誉ある天剣の称号を手に入れた。
プライドが打ち砕かれ、嫉妬するのは至極当然であった。
ミンスには、出ることさえさせてもらえなかった選定式で優勝したレイフォン。
一時は民から期待があったミンスを差し押さえ、最後の天剣授受者の席を手に入れたのだ。
何度も言うが、たかが孤児がだ。
「これは陰謀だ」
再び怒りに震え始めた体を押さえながら、ミンスは言った。
妄言ではないとミンスは確信する。
実際、確信できる事件があった。
十年前、ユートノール家とアルモニス家の間では婚約が予定されていた。ミンスの兄であるヘルダーと女王であるアルシェイラ。
代々、王族間の血を薄ませないため、王族同士の結婚が決められて
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