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マノン=レスコー
第二幕その四
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第二幕その四

「エメラルド」
 マノンは宝石の名を呟いた。
「そんなものより今は」
 けだるい顔をまたして窓を見上げる。そこに彼がやって来た。
「貴方・・・・・・やっと来たのね」
「君の兄さんに案内されてね」
 その彼、デ=グリューはマノンを咎める目で見ていた。
「また私と一緒に」
「あの時僕がどんな気持ちだったと思う?」
 デ=グリューはマノンに問うてきた。
「裏切られた僕が。どんな気持ちだったか」
「もう愛しては下さらないの?」
「一体どうしたらそんなことが」
 怒りが高まってきていた。
「僕を裏切って彼のところに逃げたのに」
「悪いと思っているわ」
「嘘だ」
 その言葉を否定する。
「君はそうなんだ、いつもそう言って」
「そう、私は不実な女」
 一旦顔を背けて言う。
「けれどそれでも貴方を」
「愛しているとでも言うのか」
「そうよ。それはいけないの?」
「僕は修道院に入ろうかと思った」
 彼は忌々しげに述べた。
「そこで全てを忘れようとさえ思った。そんな僕に対して君は」
「ですから私は」
「嘘だっ」
 また彼女の言葉を否定した。
「君はまた僕は」
「どうしても信じて下さらないのね」
「裏切られた人間なら誰だってそうだ」
 彼はそう言い返す。
「誰だって。特に僕は」
「けれど貴方を愛しているのはもう聞いている筈よ。お兄様から」
「彼からも聞いてはいる」
 その言葉はまずは認めた。
「だがそれでも僕は」
「どうしても許して下さらないの?」
「誰が。そんなことを」
 マノンから顔を背ける。
「戯言ばかりで」
「けれど本当に私は」
「口だけだ」
 その言葉も否定する。
「君はいつもそうだった。僕を騙して」
「では私が貴方のことだけを考えていたのは」
 マノンはその彼に問う。
「忘れたの?」
「それは」
 マノンとの懐かしい日々を思い出した。すると彼は急に声を弱くさせた。
「忘れていないわよね」
「忘れたい」
 忘れられないのを今認めた。
「だけれどそれでも」
「お兄様からも聞いている筈ですわ」
「ああ、それでも僕は」
「愛して下さらないの?もう」
 離れていても言葉は届いた。
「もう二度と」
「いや、それは」
 デ=グリューはそれ以上言えなかった。
「それは・・・・・・」
「でしたらまた」
「しかし君は僕を裏切った」
 口では批判する。しかし。
「僕は君を」
「ぶつのですか?」
「いや」
 彼はそのような男ではない。それに今の彼にはマノンはもうあがらえないものになっていた。その魔性の魅力に囚われてしまっていた。だから。
「私と一緒に」
「君と一緒に」
「そうです、また」
 彼女は語り掛ける。
「二人で」
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