第百十五話 大谷吉継その八
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「これもおかしなことじゃ」
「確かに。それは」
「しかしどちらの寺にそうした坊主がおってもおかしくはない」
「どの寺にも一人か二人は」
「千人おれば絶対に一人はおかしな者がおる」
この世の摂理の一つだ。
「必ずな」
「その様ですね」
「軍でも同じじゃ」
信長は彼が率いる十九万の軍勢についても話した。言うまでもなく今現在天下で随一の勢力の軍勢である。
「やはり千人に一人はおかしな奴がおる」
「どうしてもいますか」
「うむ。軍に入れる者は選んでおるがのう」
兵農分離からそうしているのだ。だが、なのだ。
「それでも千人に一人でおる」
「十九万ですから百九十人ですね」
「それ位しかおらんがな」
「それでもですか」
「その千人に一人が厄介なのじゃ」
信長は顔を曇らせて帰蝶に述べる。
「どうにものう」
「その僅かな者達が不埒な行いをするからですね」
「その通りじゃ。乱暴狼藉をし次第成敗しておるが」
「それでもですか」
「数は少ないがそれでもそうした者が僅かでもいて悪さをすると当家の評判が落ちる」
信長が恐れているのはこのことだ。
「どうして一銭斬りまでするかというとじゃ」
「乱暴狼藉を微塵も許さない為ですね」
「まさにその為じゃ」
その通りだというのだ。
「微塵も許してはならんのだがのう」
「若し僅かでも許せばその時は」
「木曽義仲と同じじゃ」
かつて都に浮かれ舞い上がり無作法な振る舞いを繰り返し評判を落とした彼と同じだというのだ。信長は政を知っている。
そこが木曽義仲と違う。だからこそ言うのだ。
「そうしたことは何時でも何処でも許さぬ」
「そうだからこそ」
「千人に一人でも厄介じゃ」
信長は袖の下で腕を組み述べた。
「そこが難しい」
「比叡山も高野山もそうした僧侶はおそらく少ないですね」
「どの世界でも大抵の奴はまともじゃ」
信長はこのこともわかっていた。
「しかしごく一部のおかしな奴がいるから難しい」
「そしてそうした者がいて」
「比叡山が特にじゃな。あの寺には妖しいものを特に感じる」
「あの寺にですか」
「高野山よりもな」
「ですか。ですが比叡山には」
「かつて足利義教公が攻めて焼いたがな」
信長は難しい顔で述べた。
「さっきも言ったがわしは戦は出来る限り避ける」
「ではことを構える前に」
「それをせぬ様に進める。しかしいざとなれば迷わぬ」
やはりこれが信長だ。いざとなればそうするのだ。
「手は打つ」
「そうされてですか」
「何とかする。天下泰平の為に延暦寺が邪魔なら」
「攻めますか」
「その際世が何を言おうと構わぬ」
信長はその際の悪評も覚悟していた、今語るその言葉は毅然とさえしている。
そしてその態度で言うのだ
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