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巫哉

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に存在してこの方、誰にも知られず、一度も呼ばれることのなかった名を『彼』は確かにヒベニに教えた。



 『彼』が予想していた通り、ヒベニは首を傾げたまま、もう一度言った。



「みこや」



「そうだ。俺の名はミコヤ、だ」



 『彼』は言った。それから笑った。楽しい気分だった。ずっと『彼』の名を知る者などいなかったのに、それを(あやかし)でもなく、神でもなく、ヒトの子に伝えたということがなぜか物凄く面白いことのように感じたのだった。



「ヒベニ」



「なに?」



 せっかく起きたのだ。延々と途方もなく長くを生きなければいけないこの身。目の前のヒトの、一生に関わるぐらいなら良い暇つぶしにはなるだろう。



 それにこのガキの神経の図太さ、図々しさ、見ていて飽きない。どんな人間になるのかを見てやるのも一興。



「みこやびろ〜ん」



 ヒベニは『彼』の顔をもみくちゃにしながら好き勝手やっている。



「おい。喰うぞ!」



「えーやだーひべにおいしく…」



 いきなりヒベニが黙った。じっと、『彼』の目を見ている。



「なんだよ」



「めのいろ、かわってきてる」



「目?」



 『彼』ははっとした。



「なにから、なにに」



「くろ、から、えっと…ちゅーりっぷの、あか。きれい。あ!かみもだよ。かみもからすのくろから、しらが!」



「こんのくそガキ白髪じゃねぇよ!銀だ!ヒトと一緒にするな!」



「えーでもしろだもんしらがだもん。そういうんだよ。みこやおにーちゃんじゃなくておじーちゃんだったんだね」



 とりあえずヒベニを小突いてから、『彼』は自らの髪に手を触れた。



「変わってきてるって言ったな。どれくらい変わってる?」



「はんぶんぐらい」



「半分…」



 瞳の緋に、髪の銀。それは、誰も視ることのできない『彼』本来の色。



 『彼』の真名を知ったからか。いや、正確には知ったのではなく、「聞いた」。だからこうして触れあっていても何も起きない。



 『彼』はフンと鼻を鳴らした。名を知られたから、姿も偽れないのか。妖や神にとって真名は魂そのものだとはいえ、誰が決めたのか、よくできている。



「ぜんぶしらがになっちゃった」



「おまえ、俺が怖くねぇのか」



 今更のように『彼』は聞いた。普通のヒトが瞬く間に髪や瞳の色が変化することなど、あるわけがないのだ。しかも目の色は血のような赤。髪も一遍の曇りもない銀だ。ヒベニは
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