巫哉
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「あああったかいあったかい」
『彼』は適当に答えた。
「えへへ。ひべに、やくにたった?」
「たったたった」
「じゃあ、ありがとうございます、は?」
「は?」
「かんしゃしたら、ありがとうございますっていうんだよ!」
「……………。アリガトウゴザイマス」
「おにーちゃん!ちゃんときもちをこめていいましょう!ってせんせいにいわれるよ!」
ヒベニと言うらしい幼子は頬をぷくっと膨らませると『彼』の鼻先に人差し指を突き出した。
しかし勢いがありすぎてヒベニの指はそのままぶすりと『彼』の鼻の穴に入った。
「ぅおい!」
「ほら、もういっかい!」
「あ…ありがとうございます…」
鼻にヒベニの指を生やした間抜けな格好のまま、『彼』は言った。
「どういたしましてー」
ヒベニは満足したようににこにこと笑って言った。
それから引き抜いた指を汚いとばかりに『彼』に擦りつけている。
なんて餓鬼だ。図々しいにも程がある。大体人間同士でもいきなり初対面のヤツの鼻の穴に指を突きさすか?『彼』は唸った。そんな挨拶、聞いたこともないし見たこともない。
「あ、そういうことかー」
また唐突にヒベニは言った。どういうことだ、『彼』は思ったが十中八九、ろくでもないことなのは明らかだ。
「やましたひべにです!おにーちゃんのおなまえはなんですか」
名前?名前なんて…と頭に浮かぶうちに、ぼんやりと『彼』は自らの名を口にしていた。
それは、ヒベニの勢いに押されたからなのか。
はっとして口を噤んだときにはもう遅い。
…言ってしまった。ヒトの子ごときに…。自らの迂闊さに肝が冷えたが、しかしヒベニはこてんと首を傾げると言った。
「み、こ、や?」
『彼』は思わず笑った。よりにもよってそこを聞き取るとは。確かに『彼』の真名は人に比べるとかなり長く幼子なら全て覚えれずとも仕方ないが、たった三文字、しかもどこをどう切り貼りしたのか。
『彼』はそれで気が緩んだのか、もう一度、ゆっくり自らの真名を幼子に説いた。
どうしてその時、そんなことをしたのか、『彼』自身にもよくわからないのだ。一度目に呟いたのはうっかりだったが、二度目は『彼』の意思だ。
どうせこんな幼子には聞き取ることもできまいと思ったのか、それとも別の理由があるのかはわからないが、その時、『彼』がこの世
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