第三幕その四
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い布に包まれた細長いものを取り出す。それは短刀だった。蝶々さんの家の最後の家宝、ピンカートンとの婚礼の時に見せなかったあれだ。それを静かに取り出すと鞘を抜いたのであった。
「名誉を守ることができなければ名誉の為に死ね」
座ってからこう呟いた。そうして喉元に刃を当てる。だがその時だった。
子供が部屋に入って来た。彼に気付いて動きを止めた蝶々さんに駆け寄る。
「御前!?御前、どうして」
蝶々さんは我が子を見て思わず声をあげた。
「どうしてここに。どうして」
思わず我が子を抱き締める。抱き締めると涙が流れた。
「見せたくはないの。百合と薔薇の花の様な御前のその穢れのない瞳に可哀想な蝶々が消えていくのを見せたくはないのよ」
子供を抱き締めながらの言葉であった。
「御前は海の向こうで幸せに生きて。お母さんに捨てられたと思われたくはないの。御前は御空から光に満ちて授かったのだから。だから」
我が子に自分の顔を見せる。そうして言うのだ。
「御前のお母さんの顔を。忘れないでね。だから」
最後の言葉だった。もういかなければならなかった。
「さようなら。これで」
我が子に反対側を向けさせてその手に日本とアメリカの国旗と人形を握らせる。その時にそっと目隠しもさせた。その間に子供をじっと見詰めた後で障子の向こうに消えて。そこから我が子のシルエットを見つつ静かに喉に刃を突きつける。そうして。最後を迎えた。
短刀がゆっくりと落ちて生じが開いた。倒れた蝶々さんの手が最後の力で開けたのだ。その時に弱かったのか子供の目の目隠しが落ちていた。子供は蝶々さんに静かに寄って来る。倒れ伏し域も絶え絶えの蝶々さんも少しずつ我が子に近寄る。だがそれも適えられそうになかった。命の火が消えようとしていた。仏壇の火が消えていくのと合わせて。その力尽きて子供のすぐ側で動かなくなった。
「蝶々さん!!蝶々さん!!」
家の外からピンカートンの声が聞こえる。しかしもう遅かった。何もかもが遅かった。全ては終わってしまっていたのだった。全てが。
蝶々夫人 完
2008・2・12
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