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戦国御伽草子
弐ノ巻
かくとだに

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「そばに、いて」



か細い声が吐息と一緒に吐き出されると、瑠螺蔚さんの瞼は再びゆっくりと下がって行った。



「…」



暫く、僕は動けなかった。



今のは、僕の幻聴か?けれど、幻と片付けるには、その声は生々しく僕の耳に残った。



しかも夢ではない証拠に、瑠螺蔚さんの手は、僕の袖を握ったままだ。



瑠螺蔚さんの手を、握り締める僕の袖ごとそっと包む。



片手で包めるぐらいの小さな手のひら。



いつからか、僕が守られていたこの手は、思っていたよりも大分脆いと気がついてしまった。



瑠螺蔚さん…。



僕を引きとめるこの手が、嬉しくないわけはないじゃないか。



わかった。諦めた。本当に瑠螺蔚さんは、いつも、いつも僕の心をかき乱すだけかき乱していく。



据え膳食わぬは男の恥と言うが、そういう意味では僕は立派な「男の恥」だな。



いや、本当に、これ以上ないくらい瑠螺蔚さんらしい。



思わず笑みが漏れた。



僕の服を着て、僕の布団で、僕の横で寝てる瑠螺蔚さん。



こんな状況で、側にいてなんて、良くも言えたものだ。



僕だったからいいようなものの、どこでもこんなに無防備でいられたら気が気じゃないよ、全く。



憎いぐらい静かに、瑠螺蔚さんは眠っている。



明日はいつもの瑠螺蔚さんにもどってくれるだろうか。



そうなったら、どんなにいいだろう。



小さいころの瑠螺蔚さんは活発で、草や泥がつくのも(いと)わずよくこうして野原に寝っ転がっていた。



そのまま寝てしまうのもよくあることだった。



そして、その側には、いつもー…俊成(としなり)殿がいた。



僕はくすりと静かに笑った。



どうしてこう、思考が俊成殿に戻ってきてしまうのか。



話してみたかったな、一度。はぐらかすことをせず、膝を突き合わせて。



瑠螺蔚さんをずっと、見守ってきた俊成殿と。



多分、僕がこう思うのはもういない俊成殿への哀追なのだろう。三月(みつき)前の僕なら、こんなに穏やかな気持ちで望むまい。これは、決して叶うべくないことなのだ。



乱れ、舞う雪の囃子(はやし)が、深々と僕の身体に染みる。



雪は、(たけ)る武士を思い起こさせる…。



「このごろは、戦、戦、そればかりだ。いくら戦国(いくさのくに)で、命が失われていくことが日常になっても、やっぱり、人が死ぬのは嫌だよ。殿はやり方
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