巫哉
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「うん…」
大雨は降ったときのようにあっというまに止んでいた。日紅が身じろぎするたびに足元の水たまりが耳触りのいい音を立てた。
遠くでチャイムの音が聞こえた。授業の始まる5分前を知らせる予鈴だ。
日紅は虚をもう一度ぎゅっと強く抱きしめた。
「ウロ!」
「なんだ」
「ありがとう!大好き!」
衒いなくそう言って、日紅はにこりとわらった。
「ウロ、あたしが死ぬときに身体をあげる」
日紅はすっと虚から離れた。
本人は否定するかもしれないが、虚は優しい。その優しさを日紅は一方的に受け取るだけだ。初めて会った時も、そして今日も。
虚に日紅がしてあげられることは何だろうと考えて、それしか思い浮かばなかった。
もともと日紅を食べようとしていた虚だ、わざわざ日紅から許可を出してもらわなくともいいかもしれないが、きっと虚はもう本気で日紅を食べる気はないと日紅は直感で思った。
「妖に向かって自らそのようなことを言うなど…愚かだ。ヒベニ」
「オロカでいいよ。でも今すぐはあげられない。あたし寿命が来るまで生きるつもりだから、その時まで待ってね」
我ながら都合がいい話かと思ったが、虚はなにも応えずに去ってしまった。
水滴が制服のスカートからぴちょんと垂れた。
『彼』は怒るだろう。たぶん、ものすごく。日紅が死んだあとに死体がないとわかったら家族や、犀は悲しむだろうか…。
日紅はそう思ったが後悔はしていなかった。
またチャイムが聞こえた。今度は本鈴だ。
日紅はいろいろな考えを振り切るように、滑る中履きを持て余しながら急いで階段を駆け降りた。
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