第二幕その六
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第二幕その六
「私には。言えない」
「ほら、坊や」
その悲しみに耐えられないシャープレスに既に自分の言葉で泣いてしまっている蝶々さんが声をかけるのだった。
「領事さんに。お別れの挨拶を」
子供はそれに応えてシャープレスに手を振る。シャープレスはそんな子供を見て言うのだった。
「奇麗な金髪ですね」
「有り難うございます」
「名前は?」
「今は悩みです」
蝶々さんが子供に代わって答えてきた。泣いたままの笑顔で子供を見ながら。
「けれどあの方が帰ってきたら喜びに変わります」
「喜びにですか」
「そう、喜びに」
またシャープレスに告げる。
「これでおわかりですね」
「わかりました。それでは」
「はい、また」
礼儀正しくシャープレスに挨拶を返す蝶々さんだった。
「御会いしましょう。それでは」
「お元気で」
シャープレスは丘の上から姿を消した。蝶々さんは彼を見送ってからまた子供を見る。その子に優しい言葉をかけるのだった。
「もうすぐよ」
にこやかな、あやす顔での言葉だった。
「もうすぐお父さんが帰って来るわよ」
「あっ」
この時鈴木が声をあげた。海の方から砲声が届いてきたのだ。
「蝶々さん、あれは」
「大砲の音ね」
「そうです、軍艦の大砲の音です」
そう蝶々さんに告げる。
「あれはやっぱり」
「わかっているわ、あの人よ」
その声が弾んでいる。もう彼女にはわかっているのだ。
「あの人が来ているのよ」
「これを」
ここで鈴木は望遠鏡を出してきた。それを蝶々さんに差し出すのだった。
蝶々さんはそれを受け取る。そうしてそれで海の方を見ると。見る見るうちにその顔が笑顔になってきた。
「見えますか?」
「見えるわ」
その声が弾んでいた。
「アメリカの旗が。本当に来られたのよ」
「そうですか、本当に」
「ええ、帰って来られたわ」
望遠鏡で海の方を眺めながら言葉を続ける。
「信じていたわ。けれど」
「だからこそ嬉しいのですね」
「ええ」
望遠鏡を下ろす。その目からは歓喜の涙が溢れ出ていた。そのうえで顔は笑っているのだった。
「本当に。やっと」
「蝶々さん」
「鈴木」
自然と二人は向き合う。にこやかな顔を向け合って言い合うのだった。
「あの桜の小枝を揺さぶりましょう」
「桜の小枝をですね」
「そう。それで」
蝶々さんは言う。
「花の雨を浴びたいわ。薫り高い花の雨の中で燃える様なこの想いを浸したいのよ」
「そうですね。では」
「それであの方は」
喜びの中でピンカートンを想うのだった。
「どれ位で来られるかしら」
「さあ」
「一時間位かしら」
蝶々さんは最初こう予想を立てた。
「もっとでは?」
「じゃあ二時間ね。そ
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