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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission7 ディケ
(6) キジル海瀑(分史) A
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。言うこと聞かないし、時計は渡さないし、エルだって俺の側だし。俺は兄さんの駒じゃなくて、ちゃんと考えて動く一人のエージェント。兄さんにとってはカナンの地一番のりを阻む障害じゃないか。なのに何でそんなメチャクチャ血流して助けようとしてるんだよ)

 ユリウスが剣を落とし、砂浜に膝を突いた。遠目にも分かるくらい兄の面には苦痛が刻まれている。

(くそっ。何でだ。どうしてだよ。エージェントになっても、俺は結局兄さんに守られっぱなしのガキでしかないのか。もういっそハッキリ邪魔だって、敵だって言って、打ちのめして道標奪ってくくらいしろよ。でないと――自信が持てなくなる。あの頃から兄さんは何一つ変わってないんじゃないかって。変わったのは俺のほうで、悪いのは俺だけなんじゃないかって)

 ふいに、軽いものがルドガーの上に覆い被さった。

「ルドガー、ルドガー、ルドガー! 死んじゃだめ! 負けないで!」

 エルだった。ルドガーを抱きしめるには足りない小さな体で、ルドガーの体を包もうとし、精一杯にルドガーに生きる気力を注ぎ込もうとしている。

「約束! いっしょに『カナンの地』に行くって! エルはルドガーといっしょじゃなきゃ、『カナンの地』なんて行きたくない! ルドガーがいなくちゃ、なにもかも意味ないんだからぁ!」

 約束。一緒に「カナンの地」に行く。ルドガーと一緒でなければ行きたくない。

 幼い少女の魂の底からの激励は、ルドガーの混濁した思考を一気に現実に引き戻した。

「え…る…」

 辛うじて指を動かし、エルが重ねた手に指を弱々しく絡ませる。

「あ、ぐっ…ぎ、ぐぅ、あ゛あ゛あ゛…!」

 再び襲う、命を削り取られるの激痛。それでも――死ねない、と。一瞬で痛みに押し流される欠片ほどの想いだが、決意は確かに心に芽生えた。

(ああ、負けないよ、エル。負けてたまるかってんだ。俺はお前をカナンの地に連れて行くんだ!)




 血を流し膝を突いたユリウスの前方。海上に、ドクロとイソギンチャクを掛け合わせたような毒々しい魔物――海瀑幻魔が出現した。

 ユリウスは双剣を握って立ち上がろうとする。しかし、今の失血と、時歪の因子(タイムファクター)化の痛みで思うように四肢が動かせない。

(海瀑幻魔は誘き出せた。あとはこの魔物を殺して、ルドガーにかけた術を解かせるだけなのに!)

 幻魔の触手が一斉に動かぬユリウスをロックオンした。まずいと分かっているのに体が動かない。こんなところで終わるわけにはいかないのに――!

 ユリウスめがけて触手の乱れ打ちが発射された。

「天地!」「噛み砕け!」
「「ロックヘキサ!!」」

 眼前に石柱が隆起し、乱立する。石柱は幻魔の触手を弾いてユリウスを防
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