弐ノ巻
かくとだに
3
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僕はため息をついた。
あれから、ずっとだ。
前田家の火事から三月たった今ですら瑠螺蔚さんの僕に対する態度は変わらない。
瑠螺蔚さんに言いたいことはたくさんあった。
何度、瑠螺蔚さんのところに乗り込もうと思ったか。
どれだけ、いいかげんにしろよと言いたかったか。
でもそれは僕の事情であって、そんな事をしたって身勝手な感情の押し付けにすぎないんだ。きっと。
僕は空を見上げた。黒く広がる遥か空の上から純白の花弁がふわふわと舞い落ち庭に薄く積もる。吐く息も白く凍え空気を染める。
瑠螺蔚さんに、嫌われるなんて、考えてもみなかった。
もちろん好きな人に嫌われるのは怖いから、それを恐れてはいたけれど、心のどこかで瑠螺蔚さんが本気で僕を嫌うことがないと高を括っていたのだと、思い知った。
ふと、外を眺めていた白一面の僕の視界の端に赤いものがちらりと映った気が、した。
雪椿か?
けれどいくら目を凝らしても、さっき一瞬見えた筈の赤はどこにもない。
僕は立ち上がった。なぜか気になって、その赤いものが見えたところへ向かった。
草履を履いた足を地べたに降ろす度刺すような冷たさにじんと痺れる。
珍しく薄く積もった雪のなか、赤が見えたところまで来たが、やはり見渡す限り一面の白だけで赤いものなど何もない。気のせいだったかな、と目線を下に向けた僕はふと気がついた。積もった雪を踏みつぶした真新しい足跡がある…しかも裸足だ。その足跡は、琵琶の湖の方へ向かっているようだった。子供ではなく、大きさからみても大人の足跡だった。
この冬に、裸足で外をふらふら彷徨うなんて、狂気の沙汰としか、思え、な、い…。
僕は、さっと血の気が引いた。
今日瑠螺蔚さんは何色の着物を着ていた!?赤ではなかったか?血のような真紅の。
振り返れば、僕が残してきた足跡がその足跡に被さるようについている。嘘だろう!?佐々家からずっとその足跡は続いているのだった。
僕は走りだした。
悪い考えばかりが頭をよぎる。
まさか、まさか、まさか…。
いや僕の杞憂で終わってくれ。瑠螺蔚さんはそんな、自ら命を断とうとするような、そんな人じゃない。いつもの散歩かもしれない。
僕が息を切らして湖へ辿り着いた時、赤いものは黒々と広がる水の真中にいた。
いやもはやあれは赤いものなどではない。間違いな
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