暁 〜小説投稿サイト〜
戦国御伽草子
弐ノ巻
かくとだに

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く、()の衣を(まと)った瑠螺蔚さんだった。



「瑠螺蔚さん!」



僕は湖を掻き入ろうと水に一足踏みこんで、思わず奥歯を噛みしめた。痛みを伴うまでの冷たさ。けれど躊躇(ためら)っている暇はなかった。瑠螺蔚さんは僕に背を向けたまま、ゆっくりと何かにひきよせられるように歩いて行く。その先に一体何を見ているのか。駄目だ、行っては。



水の抵抗で思うように進めずにいると、(つい)にたぷんと瑠螺蔚さんの頭が沈んだ。



「瑠螺蔚さんっ!」



悲鳴のような声が漏れて、僕は瑠螺蔚さんに手を伸ばした。たったの三足(みあし)の距離が、酷く遠い。



やっと瑠螺蔚さんを水の中から助けだすと、ぐったりとして意識がないようだった。



肩を揺すっても、頬を叩いても、何の反応もなかった。



力ない首が、揺すられるたびにぐらぐらと左右に揺れた。



「瑠螺蔚さん!」



なんで、こんな。



僕は泣きたい思いでその背を叩いた。



雪は絶えず降り続き、瑠螺蔚さんにも、僕の上にも冷たく積もる。



俊成(としなり)殿、お願いだ、瑠螺蔚さんを連れていかないでくれ…」



僕は言った。情けなく手が震えている。



このまま、瑠螺蔚さんの目が覚めなかったら。



そんなことはない。そんなことはあってはいけないんだ。



生きようとしてくれ、瑠螺蔚さん。俊成殿がすべてじゃないだろう?失うことは悲しい。大事なものであればあるほど、その悲しみは身を割かれるよりも辛く苦しいだろう。けれど、それに囚われてちゃいけないんだ。立ち止まって、蹲っても、いつかは歩きださなきゃならない。生きている限り。



生きている全てのものに終わりは来る。出会いがあれば別れがあるように。



でもそれを後悔しちゃいけない。出会いを悲しいものにするのではなく。



別れを惜しんでも、恨んではいけない。



自ら死ぬことは、逃げることだ。生きることから、この世の辛さから。瑠螺蔚さんは、そんな弱い人じゃないだろう?



生きてくれ。理由なら僕がなるから。



辛さを乗り越えられるだけの力に、僕がなるから。



「った!」



強く瑠螺蔚さんの背を叩いたら、瞼が震えてがぽっと水を吐き出した。



大きくむせている瑠螺蔚さんを、僕は抱きしめた。



よかった、良かった…。



情けないが安堵で涙が滲んだ。



もう、こんな思いはしたくない。最近は瑠螺蔚さんに心配かけられてば
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