暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
20話「ヒトでないもの」
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
達など一瞬で殺されるのがオチである。
 それは遣い魔なら皆生まれながらに知っていることなので、魔人の前でそんな無様なことをすることはない。そしてだんだん、遣い魔も話をする相手聞く相手を限るようになる。

 つまり、主人或いは自分にとって、必要な情報のみを選別して生きていくのだ。

 ゆえに、アシュレイは、人間が生活する上での、その他人と他人の距離の近さに、ひどく違和感を覚える。



 なぜ人間は許可もしていないのに、勝手に自分の領域の中に土足で踏み込んでくる?

 なぜ人間は接点も何もない他人にそれほど興味を持つ?

 なぜ、人間は不自由で生きにくいであろうに、他社と集団で行動し、生活をする?



 そしてそれを――"何故人間は"と考えること自体が、アシュレイが人間ではないことを物語っていた。

 最早自分は主人に捨てられた身。ならば、このままユーゼリアについて少しずつ人間として生きてゆくしかない。そう思っていた矢先に突きつけられた、"どうあったとしても「遣い魔」である"という事実。


 人間になりきれないことには、この世界で生きて行くには厳しいだろうか――。


「それから、同伴していた彼女は、言ってみれば師弟関係だ。俺が弟子だな。俺の前の仕事は、ある方の道具となることだよ。……鑑定ありがとう。じゃあな」

 言外に"これ以上聞くな"という牽制をかけ、出口へと向かう。ユーゼリアとは、討伐に出る際に落ち合い場所を決めていた。壁にかけてある時計を見やる。時間はちょうどいい。

 僅かに軋む扉をあけて、時計台の下へと歩き出した。




******




 アシュレイが去ったギルドにて。

「……サラ先輩」

「なに?」

「私、聞いちゃいけないこと、聞きました……?」

 誰もいなくなったギルドの中で、手元に視線をおろしながら尋ねる可愛い後輩の頭を撫でると、明るい声でサラは言った。

「そんなことないわよ。良かったわね、長所だって褒められて」

「…そうですね! ていうかあの人かっこよくありませんでした!? あんまり見ない黒髪とか、『ある方の道具となることだ』…とか! 影があるイケメンとか、ちょ、どストライクなんですけど!!」

「前言撤回。あんたやっぱりしばらくしょんぼりしてなさい。うるさい」

「もうあの人行っちゃうのかなぁ。うちの実家の料理屋紹介したかったなぁ」

「うるさいっての」

 こんな会話が繰り広げられていたことを、アシュレイは知らない。
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ