19話「けもの」
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バルバズという巨大蜂の蜜をとりにきたアシュレイは、途方に暮れていた。
「………そういや、バルの木ってどんなのか、聞きそびれたな」
意味もなく瓶をぶらぶらさせてあてどなく歩き続けると、ふとアシュレイの耳が、小さな音を拾い上げた。
ヴヴ…ヴヴヴヴ
昆虫の羽音のような音だ。方角はポルスよりやや北、距離は600mといったところか。
瓶を上に軽く放り投げ、バッグにいれる。音をたてないように気をつけながら走り始めた。
ストッと太い木の枝に足をつく。そのまま枝から枝へと飛び移った。気配を沈黙させ、音という音は全て殺す。足だけでなく手も使って、4本の足としているかのようだった。
その動きは、完全に人間とは思えないものだった。
しなやかで無駄がなく、なめらか。
それはまるで、獲物を追う獣のような――。
ヴヴヴ…ヴヴヴヴ
耳を塞ぎたくなるような無数の羽音。
「……これか」
気配を表し、足を止めたアシュレイが見下ろす先には、上の方が完全に包まれた、赤っぽい木がある。
丸い巣のまわりでは、先程からアシュレイを警戒するようにバルバズたちが飛び交っている。攻撃してこないのは警戒心が強いだけなのだろう。必殺となるような攻撃もないとユーゼリアも言っていた。
(……ならば、威嚇してみるか)
黒の双眸を鋭くする。
そして、その喉から出たものは――うなり声。
ピタリ。
羽音が、止まった。
「グルルルルル……」
ふと、日が陰る。
辺りに一瞬落ちた静寂。
影に佇むその瞳は、
金 色 に 輝 い て い た 。
ヴヴヴヴヴヴヴヴ!
巨大蜂が、一斉に逃げ出した。
目を黒に戻したアシュレイが満足げに巣へ向かおうとしたとき、辺りに耳障りな音が響き渡った。
ギチギチギチギチ!
アシュレイにはそれが何を言っているのかは分からない。だが、すぐにそれは知れる。
逃げた筈のバルバズが一斉に飛びかかったのだ。
溜め息をつき、アシュレイは魔法を放った。
「【吹き荒れよ矢の嵐】」
次の瞬間、彼に迫っていた全てのバルバズは赤い塵と化す。風属性上級魔法である。魔法の矢を多数、任意の的に発射させる高等魔法だ。
(これだから脳筋は……。女王蜂がこれじゃ駄目だろう。いや、むしろ仕方ない…か?)
女王蜂は、何が起ころうともその場から離れてはいけない。卵を置いて逃げ行くことはないのだ。故に己の息子達に命令をして、侵入者を襲う。それしかしない――できない女王蜂が、アシュ
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