第5話『その男は』
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声色に、反射的に目が覚めた。起き上がろうとして、体を襲う激しい痛みに失敗してしまった。痛みで顔を顰める。
「大丈夫?」
また優しい声。だがさっきとは別人の声だ。体はほとんど動かないし、感覚もほとんど働かない。首をめぐらそうにも首をうごかそうとするだけで激痛が走る。
動くのは諦めるか。
そう思って、でも聞き覚えのない声だったから「誰だ?」と尋ねる。その声が実にか細い声で、俺自身、信じられないような声量だった。
「……あ、目を覚ましたみたいね、よかった」
「ほんと、わたしたち手当ての知識とないからどうすればいいかわからなくて」
ホッとしたように言う二人が突然、眼前に現れた。上から声がすると思ってたら本当に俺の頭上で会話をしていたらしい。
「!?」
それはまさに一言で言うなら美人。一人は短めの黒い髪と少し細い目が特徴で、もう一人は肩まで伸びた金の髪とぱっちりとした目が特徴的だった。それぞれ好みは人によってあるだろうけど、少なくとも俺から見て、どちらも美女としか表現できなかった。
急に美女が二人も出てきたせいで声を失っていると彼女たちは少しだけ楽しそうに微笑んだ。
「……あら、この子照れてるわよ?」
「ふふ、ホント……マーメイドカフェに来てくれたらサービスできたのにね」
照れてない。
そう言おうとしたけど、それよりも思ったことがあったからそれを尋ねる。
「もしかして……人魚、さん?」
「正解」
「よく出来ました」
二人がにっこりと微笑み、それがまた二人の魅力を引き出す。自分よりも明らかにお姉さんである二人の笑顔に自分の頬が熱くなってしまうのを感じてしまう。鏡でみたら今の俺の顔は真っ赤なんだろうなとか思ってたら彼女たちが笑みを深くさせる。
「可愛いわねぇ」
「ええ」
かわいくなんてない。それに俺は男なんだから嬉しくない。
口を開きかけて、だけどまた思ったことはそのまま心の奥底にしまわれることにした。
それよりもまた大事なことに気付いたからだ。
決して広いとはいえず、光もほとんど差さないこの物置部屋。
そして自分が人魚といるというこの状況。
導き出される答えは一つだった。
「もしかして……ぼくのせいで捕まってしまいました?」
二人の人魚さんは驚いたように顔をあげて、視線を合わせる。数秒見詰め合っていたと思ったらまたと俺へと顔を向けて、首を横に振った。
「いいえ?」
「私達が間抜けだった。それでこの船の人たちに攫われちゃったの。それだけよ」
嘘だ。
瞬間、そう感じた。
自分がここにいて、人魚がここにいる以上、自分という餌を使った以外ありえない。だからこれは自分のためについてくれた嘘。少しでも自分が気に病ま
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