第5話『その男は』
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あ次は俺がやりまっす!」
そう言って次の男がナイフを投げようとまた一本のナイフと手に取った。
その光景をハントはもう見ようとすらしない。朦朧とする意識が、何かを注視するという行為を許さないのだ。
ただ、それほどに状態にあってもハントは意識をまだ失っていない。
――目を閉じるな、閉じるな、閉じるな。
もはや痛みに対する恐怖を超越し、ハントの中にあるのはただただ意地。
餌になるという海賊の思い通りになってたまるか、という意地。
強制的に餌にさせられるという不可抗力だろうがなんだろうが人魚を攫うことに協力してたまるか、という意地。
男がナイフを投げようとしたそ瞬間、船医が前に出て両手を振った。
「ストップ! ドクターストップ!」
その声を聞き、投げようとしていた男が慌ててナイフを止める。
「俺、結局一回も投げてないっす」
つまらなさそうに酒に手を伸ばす男だったが、突如男の前に降り立った船長がその酒を蹴飛ばした。
「てめぇらは一旦解散、寝ておけよぉ。明るくなったらすぐに始めるぞぉ……船医、お前はやることわかってるなぁ」
「海に浮かべて小一時間死なない程度で?」
「十分だぁ」
満足そうな表情を浮かべながら船長はハントの元へと歩み寄る。
「も……り、か……う」
それをどうにか認識したハントが憎まれ口を叩こうと口を開く。もう言葉になっていないが、それでもせめての意思表示がにらみつける。船長はハントの傷具合をみやりつつ、僅かに驚きの色を見せた。
「……これだけぼろぼろで意識があるってのはぁ?」
「気を失うほどの強烈なダメージを受けなかったというのもありますが、それよりも子供とは思えないほどに体力があるのでしょうな、体つきをみればわかりますがいい筋肉のつき方をしていますぞ。よっぽど体を鍛えていたのでしょう。うちの船員でも幾人かはまともに戦えば負けてしまうのではないですかな?」
「面白いが……どうせこいつは俺に協力しないからなぁ。あとは頼むぞぉ?」
「お任せを」
「じゃあなぁ、くそがきぃ……ま、気が変わればいつでも言って来い、歓迎してやるぞぉ。ハァハァハァ!」
ハントは高笑いをあげながら去っていくその背中に毒づく。
――好き勝手言いやがって。
「では、意識だけは奪っておこうかの」
――なに?
普段よりも何百倍も重い自分の首を動かそうとして、その前になにかが体の中に響いた。
――なにを?
考えるも、既に視界が真っ暗。
ハントが覚えてるのはそこまでだった。
「――ぶ?」
ぼんやりとした声が耳に届いた。
「――うぶ?」
暖かく、優しい。
まるで故郷の人を思い出すその
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